オチなし、ヤマなし、地の文のSSです
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4月に入り穏やかな小春日和が続いている
少女はテーブルに肘を付き、小さな顔を手ので支えている
春の日差しが差し込むカフェテラスにはひらひらと桜の花びらが舞っている
黒々としたロングヘアーが風に揺れていた
ほっそりとしていながらもやわらかさを残す輪郭にはすっきりと整った目鼻が収まっている
少女のやや切れ長で大きな目には天気とは反対に憂いの色が見えた
通りに面したカフェテラスで少女は一人、テーブル席に座っている
注文したコーヒーは既に冷たくなっていた
「すまん、泉。待たせたな」
暗いグレーのスーツに白いシャツ
赤いチェックのネクタイがアクセントになっていた
身長はやや高く少女よりも頭一つ分ほど大きいだろう
短く切りそろえられたビジネスマン風の黒髪
顔は中の上と言ったところだが、どこか幸薄そうな空気をまとっている
泉の視線の先にいる男性が申し訳なさそうに頭を掻いた
「遅いよ、プロデューサー」
冷え切ったコーヒーのカップには桃色の花びらがニ枚浮いていた
http://i.imgur.com/K8PVVMt.jpg
大石泉(15)
ランチで賑わっていた店内は麗らかな昼下がりを過ごす数人のみとなっていた
通りには一定間隔でソメイヨシノが植えられていた
花見客の喧騒もなく、穏やかな時間の流れを楽しめる密かな名所
泉のとっておきだった
もちろん教える相手は選んでいる
「急に客先から連絡が」
男の言葉を泉がさえぎる
「いいよ。怒ってないから。あと今日は仕事の話はしないで」
泉はプロデューサーに静かな視線を向けそういった
両肘をテーブルに乗せ、絡ませた指にその細い顎を乗せる
「それよりもこれからどうしようか」
泉が小さく首をかしげる
彼女の白い頬に薄く桃色がさしていた
今、その名前を聞かない日があるだろうか
デビューして間もない3人組のアイドルユニットは飛ぶ鳥を落とす勢いで芸能界に旋風を巻き起こした
コンビニに行けば毎日のように彼女たちの曲を有線で耳にする
CDショップの店頭では彼女たちのライブDVDがモニターに映されている
書店に並ぶ雑誌の何冊かは彼女たちが表紙を飾っている
そのニューウェーブの一人が大石泉だ
「プロデューサー、聞いてるの?」
泉が少しだけ顔をしかめた
瑞瑞しい黒髪が白のブラウスを撫でる
「ああ、聞いてるさ」
プロデューサーは場を誤魔化すようにコーヒーを口へ運んだ
やっぱり砂糖は入れたほうが良かったな……
かたりとソーサーが音を立てる
プロデューサーの眉間に皺が入る
泉がふっと噴出した
泉が席を立とうと身を屈めた
真っ黒な髪にはぽつりぽつりと薄い桃色が付いていた
思わず、手が伸びそうになる
プロデューサーと人気アイドル
時には一方的に食い物にし
時には上下関係であり
時には互いの利益のみのために相互を利用しあう関係である
それがこの業界では珍しい事ではない
こんな風に互いの休日を利用して密会しているのであれば、十中八九は他言できない関係だと考えてもいいだろう
「何?どうかした?」
泉はプロデューサーの顔を見上げてきょとんとした顔で小首をかしげた
「いや、なんでもないよ」
プロデューサーは伸ばしかけた手を誤魔化すように、テーブルの隅に置かれた伝票を取った
泉が一歩先を歩く、目深に帽子をかぶり、細いふちの眼鏡をかけている
本人としては変装のつもりなのだろう
しかし、彼女のもともとの知的で涼やかな雰囲気からは逆効果だったようだ
ラフィアで編みこまれたハットには小さく花のアクセントが付いている
それは彼女に柔らかな雰囲気を与え、道行く人々を振り向かせる一員となっていた
老若男女を問わずに視線を惹きつけるのだ
「結局、どこにいくかも決めてないな」
プロデューサーはわざといつもより大きな声で泉に呼びかけた
すれ違う男子学生の二人組みがこちらから視線を逸らす
プロデューサーが腕時計を確認すると時刻は午後の3時をわずかに過ぎていた
泉が振り返る
透明なレンズの奥にぱっちりと大きな目が見える
目じりはわずかに下がっていた
彼女の足元では控えめなヒールがこつんと乾いた音を鳴らした
頭一つ分の高さを隔てて二人の視線が重なった
「いつもなら、プランとかスケジュールって言うのにな」
プロデューサーが少しだけ視線を上に逸らした
不意に合った目線に気恥ずかしさがこみ上げた
「そんなこと言うんだ……」
泉の視線はプロデューサーのそれとは反対に、下へと向いた
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