古泉「本当に……」
キョン子「……いや、おい」
古泉「困ったものです……」
キョン子「なぁ」
古泉「やれやれ、と言うべきでしょうか……?」
キョン子「なぁ、おいコラ古泉、おい」
古泉「え、あ……すみません。少し取り乱してしまって。何ですか?」
キョン子「そんなに私が女なのはおかしいことなのか?」
古泉「おかしいんですよ」
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古泉「珍しく僕が一番に部室に来て、暇つぶしに詰め将棋をしていました」
キョン子「…………(語りだした)」
古泉「皆さん遅いなと思いつつ、問題を解いていたらドアがノックされて見知らぬ女性が入ってきました」
古泉「えぇ、貴女です」
キョン子「…………」
古泉「正直言うとこの段階でもう戸惑いましたよ。完全に僕の初対面の北高生でしたから」
キョン子「そんな奴ごまんといるだろ」
古泉「いえ、僕は全生徒のデータには一応目を通してますから」
キョン子「え……気持ち悪」
古泉「まぁそれでもまだ『不思議事件の依頼の人かな』とか思ってたんですよ」
古泉「貴女が『古泉だけか』と言うや否や僕の対面に座るまでは」
キョン子「お前に無茶苦茶ジロジロ見られて私も戸惑ったよ。気持ち悪くてな」
古泉「不可抗力ですよ。僕の立場で考えてください」
古泉「謎の美女が何を言うでもなく目の前にいきなり座ってきたんですからね。身構えもします」
キョン子「はっ? びっ……」
キョン子「…………で?」
キョン子「……………」
古泉「後は貴女の言動から正体を探るのは難しいことではありませんでした」
古泉「正直、性別が変わっただけなのに容姿がこうも違うのは未だに納得できませんが」
キョン子「お前、今随分失礼なこと言ってないか?」
古泉「えぇ、少なくとも僕の知るあなたは」
キョン子「私は生まれてから今の今まで女だった覚えしかないんだが」
古泉「もちろん涼宮さんの力でしょうね」
古泉「巧みに記憶操作されているんでしょう。周囲もね」
キョン子「じゃあお前は?」
古泉「恐らくこの部室が半ば異空間化していることと、僕自身が特殊な能力者だからでしょうね」
古泉「他の――僕と似たような立場の御二人はどうなっているのか、現状ではわかりませんが」
古泉「その前に聞かせて欲しい事があります。貴女の知る涼宮さんは女性ですか?」
キョン子「あいつが男だったら一回は引っぱたいてるかもな」
古泉「なるほど……状況が僕の今言ったとおりだとしたら心配いりません。この事態はすぐに元に戻ります」
キョン子「聞いてほしそうだから一応聞いとくが、何でだ?」
古泉「涼宮さんが僕の知るとおりの涼宮さんならあなたを女性のままにしておくなどありえませんから」
キョン子「意味がわからん」
古泉(性別が代わってもこの鈍さはやはり変わらないのか)
古泉「さて? それはどうでしょう?」
キョン子「おい」
古泉「別の可能性もありますからね。機関としてはそっちの方が助かるのですが」
キョン子「ハァ……言いたいならさっさと話せよ」
古泉「あなたが貴女として歴と存在しているのが正しい可能性。つまり――」
朝比奈「ふえぇぇぇ~! す、涼宮さん、ドアはもっと優しく開け閉めした方が……」
長門「…………」
古泉「――どうも皆さんお揃いで」
キョン子「またこいつはタイミングが良いのか悪いのか……悪いんだなこれは」
ハルヒ「はぁ? いきなり何のことよ」
キョン子「何でもない。こっちのことだ」
キョン子「言ってろ」
古泉「んっふ。心外ですね。僕にそんな度胸はありませんし、そんな酔狂も興味ありませんよ」
ハルヒ「わかってるわよ。古泉くんがそんなことするわけないじゃない。冗談よ、冗談」
古泉(僕の見る限り涼宮さんはいつもと大きく変わらないように見えますね)
古泉(あとは――)チラ
朝比奈「~♪」ニコニコ
古泉(……朝比奈さんがこの事態に何も疑問を抱いていないのは一目で理解しました。えぇ)
長門「…………」
古泉(長門さんは……僕では彼女の表情から考えを読むのは無理ですね)
古泉(あるいは『彼』ならできるのかもしれませんが)
長門「…………」
ハルヒ「っで、古泉くん。悪いんだけど着替えさせるから出てってくれるかしら」
古泉「え? あ、ああ、そうですね。失礼しました」
古泉「では退室しましょうか――」
キョン子「おう、そうしろ」
古泉「……そうですよね。女性ですからね」
キョン子「?」
古泉「いえ、では」ガチャ
古泉「…………」プルルル…♪
古泉「古泉です。――えぇ、少々おかしな事態になっていまして」
古泉「あぁ、やはり機関の方では特に何も変化は見られないんですね」
古泉「今は僕自身状況を把握しきれていないんですよ。
古泉「――はい、詳しいことはまた帰宅した後にでも」ガチャ
古泉「ふぅ……」
古泉「おや? どうなされたのですか長門さん?」
長門「……貴方は彼女の存在に疑問を抱いている」
古泉「ふふ、わかっていただきましたか」
長門「退室時、普段の貴方なら彼女にあのような掛け合いは行わない」
長門「あれは私、あるいは朝比奈みくるへのメッセージと受け取った」
古泉「御察しのとおりですよ。まぁ正直朝比奈さんへは届かないとも思ってましたが」
古泉「実は僕は今の状況に困惑していまして。貴女なら何か教えてくれるのではないかと」
古泉「よろしいですか?」
長門「…………」コク
古泉「――――――――――と、僕が惑っている理由はこんなところです」
長門「…………」
古泉「長門さんはどうなのでしょうか。『彼』に関する記憶は?」
長門「無い」
長門「また、それだけ不特定多数の人間および物質の情報を操作する改変なら情報統合思念体にとっては要観察事項」
長門「だが彼らに目立った動きは無く、私には何の指令も無い」
長門「つまり――」
古泉「つまり変わったのは『彼/彼女』ではなく――――僕ですか」
長門「そう考えるのが自然だと判断する」
古泉「……そうですね、確かに宇宙を塗り替えるより僕一人の記憶を弄った方がよほど効率的に思えます」
古泉「しかしそうなると――ふふ、弱りましたね。僕にとっては」
長門「…………」
古泉「……おや、そういえば着替えにしては随分かかりましたね。入りましょうか、長門さん」ガチャ
~文芸部室~
ハルヒ「あら、有希も一緒だったの? 忘れ物は見つかった?」
長門「教室にあった」
古泉「?」
長門「そういう理由で退室した」ボソ
古泉「ああ、それはわざわざ気を遣わせてすみませんでした」ボソ
ハルヒ「ほら、キョン! いつまで憮然としてるの!」
キョン子「…………」
ハルヒ「ったく! 着替えさせるのにも一苦労だわ」
キョン子「そりゃそうだ。着替えたくなかったからな。大体なんなんだこれは」
ハルヒ「はぁ? 見ればわかるでしょ、メイド服よ」
キョン子「なんで私がメイド服着なきゃいけないんだ! 朝比奈さんで間に合ってるだろうが!」
ハルヒ「ま、ちょっとした着合わせよ。来年の映画撮影に向けてね」
古泉(こっちでも映画撮影はしたんですね……しかしこれは)
ハルヒ「今年のはアンタ雑用その他だけで出番なかったけど来年は出演させてみるのもいいかな~って」
ハルヒ「ユキの部下、メイド=トルーパーみたいな?」
キョン子「何が『みたいな?』だ。思いっきりパクリだ。やるならお前がやれ。
キョン子「それが駄目なら谷口でも国木田でもいっそ私の妹でもいい。他の奴がやれ」
キョン子「そもそもお前はまた来年の文化祭にあんな映画撮るつもりか」
キョン子「もういいだろ。来年は朝比奈さんや長門にメイド喫茶でもやらせろ」
キョン子「絶対その方がいい。有意義だ。とにかく私はやらない」
ハルヒ「ごちゃごちゃうっさい!」
キョン子「くっ……この野郎……」
ハルヒ「ま、中々ね」
ハルヒ「わざわざみくるちゃんと有希の三人でキョンでも様になりそうな衣装見繕ったんだから、感謝しなさい!」
キョン子「無理矢理着せられて何に感謝しろってんだ……おい、そこ」
古泉「は、何でしょう」
キョン子「何だその顔は……ふん、笑いたいなら勝手に笑ってろよ」
古泉「いえ、僕は普段通りですが……とってもよくお似合いですよ」
キョン子「どーだか」
古泉(確かに似合っているんですが、どうしても頭の中で『彼』と重ね合わせてしまって正直……)
キョン子「……思いっきり脛蹴ってやろうか、こいつ」
古泉(そんなに顔に出てるんでしょうか、今の僕)
古泉「どうかご容赦を。それに貴女によく似合ってるというのは僕の心からの気持ちですよ」
キョン子「…………ふん」
ハルヒ「え、そうね……まぁ、着せてみただけだし」
ハルヒ「ま、あんたがそんなに気に入らないって言うなら別の衣装を用意してあげてもいいわよ」
キョン子「そうかい……どうしてもやるなら私の希望は学生服だと言っておく」
ハルヒ「あっそ」
古泉「……!」ピロリロリン♪
古泉(閉鎖空間、発生……? 今……?)
古泉「――」チラ
ハルヒ「どうしたの古泉くん? ちょっと珍しい顔してるわよ」
古泉「あ……いえ、緊急にバイト先からヘルプに入って欲しいと連絡がありまして」
ハルヒ「あら? そうなの?
古泉「今日のシフト予定の方が来ないのか、はたまた人員を増やさないと対応できない事態なのか」
古泉「とにかくよほど急いでいるようでして。申し訳ありませんがこれで失礼させて頂いてよろしいでしょうか?」
ハルヒ「う~~~~ん、でもバイトじゃ仕方ないわね」
ハルヒ「うん、わかったわ。でもキョンのレア姿堪能できないのは残念ね」
古泉「ええ、本当に。ですが気にせず後は女性同士で楽しんでください。では」ガチャ
森「何か面白いことになっているそうですね、古泉」
古泉「第三者から見るとあるいはそうなのかもしれませんね」
森「記憶に齟齬があるとか?」
古泉「僕にとってはパラレルワールドに飛ばされた気分ですよ」
古泉「いえ、この世界もまた正しいのなら、正真正銘パラレルワールドですね」
古泉「『鍵』の性別が変わっているだけなんですが、周囲の反応や僕自身のここでの振舞いがわからない」
古泉「なまじ他が変わらないように見えますからね。とりあえず元の世界と同じような行動をしましたが」
森「それでこの閉鎖空間ですか」
古泉「申し訳ありません。どうも状況から僕が原因のようで」
森「この世界の涼宮ハルヒの精神状態に不慣れなのも仕方ないかと」
古泉「……慰めてくれてます?」
森「機関員として私の所感を述べたまでです。他の方々がどういう意見かはわかりませんが」
古泉「ふふ、そうですね」
森「何を笑って――――」ピロリロリン♪
森「待って、止めてください」
古泉「どうしました?」
森「閉鎖空間が崩壊しました」
森「対応した能力者の話では神人の動きも極めて緩慢。行動らしい行動をほとんどしなかったとか」
古泉「こちらではこういった閉鎖空間はよくあるのですか?」
森「頻繁に、ということはありませんが夏から二、三度似たような状況はありました」
古泉「なるほど……やはり今の閉鎖空間の発生原因は僕のようですね」
古泉「僕が部室からすぐさま姿を消したことで神人の動きも鈍ったのではないかと」
古泉「そしてそう考えるともう一つ見えてきました。『僕』がここにいる理由がね」
森「…………」
古泉「この世界の古泉一樹は涼宮ハルヒにとって煩わしい存在だったのではないですか?」
古泉「どうも、送って頂いてありがとうございます」
森「いえ」
古泉「それと、機関にある涼宮ハルヒとその周囲についての調査記録や報告書を貸してくれませんか?」
森「それは構いませんが……?」
古泉「こちらの『古泉一樹』が『僕』になった理由が、僕の考える通りだと結論付けて考えてみました」
森「えぇ……」
古泉「僕自身が閉鎖空間を発生させる原因の一つなのだとしたら、忌忌しき事態です」
古泉「今度こそ、こちらの涼宮さんは僕がいないのが当然の世界に創りかえる危険もあります」
古泉「……まぁそれでもう神人と闘わなくていいのなら少し魅力的ではありますけど」
森「古泉」
森「元の古泉一樹が煩わしくなった涼宮ハルヒは貴方の記憶を塗り替えた」
森「貴方が涼宮ハルヒの願うとおりのキャラクターならばSOS団は表面上何も変わらなくて済む」
森「けれど貴方も意に添わなければ世界を創り変えて――例えば貴方の位置には待ったく別の人物が座ることになると?」
古泉「その可能性もありますね。今度こそ谷口少年が超能力者になっていたりね」
古泉「しかし問題は改変後の世界がどう変わるか誰にも予想できないことです」
古泉「どこまで世界に影響を及ぼすのか見当もつかない」
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