!奈緒「シンデレラガールズ」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492168345/
1 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:12:25.34 ID:gbQcrLF00
世界観はオリジナルですが、プロダクション名は346プロです。

あと、あらかじめ自白しておくと、アイドルとの出会いの場面はデレステをパク―――オマージュしてます。

ご了承ください。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1492168345
2 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:13:37.64 ID:gbQcrLF00


第1話 はじまりはいつも突然に



―――ある春の日の休日。


その日、あたし、神谷奈緒は、友達と映画を観に行くために待ち合わせをしていた。


奈緒「あいつ、おっそいなぁ……」

???「―――待たせたな」

奈緒「やっとかよー、遅かったじゃんか。ったく、なにやってんだ。ほら、行くぜ。つぎの上映、はじまっちゃ―――って、友達じゃねえし! アンタ誰だよ⁉」



スネーク?「俺の名は―――ス○ーク」



奈緒「嘘つくんじゃねえよ!」

スネーク?「いいセンスだ」

奈緒「やかましいわ! 背広を着たスネー○がいるか! なんか声低くしてるけど全然似てねえし!」

偽スネーク「ばれたか……その通り、俺はスネ○クじゃない。よくぞ見破った!」

奈緒「見破るも何も現実にス○ークいねぇから! お前……さてはティッシュマンだな⁉ いらねーってのにティッシュねじ込む気だろ!」

偽スネーク「ふっ、そうぞうりょくがたりないよ。俺、ティッシュ持ってますか?」

奈緒「あ、確かに……なんだ、違うのかよ? まぎらわしいな……。じゃあ、飲み屋の勧誘とか?」

偽スネーク「ぶっぶー。残念ながら飲み屋の勧誘でもありませーんっ」

奈緒(うぜっ!)

奈緒「はーあ……待ち合わせ場所、変えるか……。こんなのにつきまとわれたら、キリないしな。じゃあ、そーゆーことで」



偽スネーク「アイドルやってみませんか?」



奈緒「なんだ急に⁉」

3 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:14:47.56 ID:gbQcrLF00

偽スネーク「どうですか? アイドル?」

奈緒「……えっ、アイドル? アイドルって……あの……アイドル? めちゃめちゃ可愛い服着て、LIVEする、あの……アイドル?」

偽スネーク改めP「ああ。何を隠そう、この俺はアイドル事務所のプロデューサーなのさ!」

奈緒(こ、こいつがプロデューサー?)

P「そして……君をアイドルにスカウトしたい!」

奈緒(あ、あたしをアイドルに? そ、それって、あたしがめちゃめちゃ可愛い服着て、LIVEするってことだよな……。あたしがそのアイドルに……………………はっ⁉)

奈緒「いや、いやいやいやっ、そんなワケねぇし。あたしがアイドルに勧誘されるワケないよな。話がうますぎる。はいはい、でたよ、そのパターンな」

P「なんだパターンって……言っておくが俺は本物のプロデューサーだぞ。……こ、この後だって、ザギンでスーシー食べる予定だし」

奈緒「なんか急にそれっぽい業界用語使い出した! 怪しさ倍増だわ! あと、それを言うならスーシーじゃなくてシースーだろ⁉」

P「あ、やべ間違えた⁉」

奈緒「あーもうっ、絶対だまされないからなっ。いや、だまされないってか信じない!」

P「自分を信じるな! 俺を信じろ! お前が信じる俺を信じろ!」

奈緒「グレン○ガンか! だからあんたのこと信じてねぇんだよ! てゆーかホントだとしても無理に決まってんだろ!」

P「無理なんかじゃない! 君にはアイドルの見込みがある!」


怪しい男が、あたしの目を真っ直ぐに見てそう言い放った。
その言葉を聞いて、若干心が揺さぶられるあたし。


奈緒「……見込みあるって、本当? それ、本気で言ってんのか?」





P「いや、勢いで言っただけだ」





奈緒「正直だな、あんた! そこは黙っとけよ、口下手か!」

P「しまった、つい本音が……!」

奈緒(駄目だこいつ……一瞬信じたあたしが馬鹿だった!)

4 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:16:24.81 ID:gbQcrLF00

奈緒「付き合ってられるか! あたし、もう行くからな!」


男に背を向け、歩き出すあたし。……だが男は諦めていなかった。



P「あ、アイドルになれば、可愛い格好もできますよ!」



奈緒「!」


その言葉に、またしても揺れるあたしの心。気が付けば歩みはその場で止まっていた。


奈緒(可愛い……格好? え、それって、テレビで見るような……ああいう服、着られたりする感じ? あ、あたしに似合うかな………………じゃなくて!)

奈緒「いや……べ、べつに可愛いカッコとか……興味ねぇし……き、興味ねぇから! ホントだから!」

P「あとサイリウムコーデも着られますよ!」

奈緒「それは絶対嘘だろ⁉ あんたの事務所はプリ○ラにあんのかよ!」

P「と、とにかく話だけでも聞いてください! お願いします!」


男があたしに頭を下げてくる。


奈緒(……。…………ここまでされると、あれじゃないか? 話聞くくらいなら、してやるべきじゃないか? だってほら、可哀想じゃん。こいつ、頭まで下げてるんだし、このままどっか行くのは人としてさ。けっして、あたしがアイドルに興味があるとかじゃなく)

奈緒「はぁ……仕方ないなぁ。友達も来ないし、話ぐらい聞いてやるよ。いや、関心とかないけどさ。これはその……人助けだから!」

P「ありがとうございます! では……」



P「へい、タクシー!」



奈緒「なにタクシー停めてんの、あんた⁉」

P「話をするなら、うちの事務所に来てもらった方が早いから」

奈緒「ざけんな! 友達と待ち合わせてるって言っただろ! そんなとこまで行けるか!」

P「じゃあ、そっちはキャンセルということにしてもらえませんか?」

奈緒「なんでだよ! そんなの――」

友達「お待たせ―、奈緒」

奈緒「なんでこのタイミングで来た⁉」

友達「へ? 何が? ところでその人、誰?」

P「実はかくかくしかじかで――」

友達「え、奈緒をアイドルに⁉ すごいじゃん! 映画なんていいから行ってきなよ、奈緒!」

奈緒「いや、いいからじゃなくて! あたし、今日は映画観に来たんだけど⁉」

友達「私、応援してるよ!」

奈緒「なんか応援された! あたしやる気ないのに!」


5 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:16:51.65 ID:gbQcrLF00

友達「プロデューサーさん、奈緒は素直じゃないんですよ」

P「あ、な~る。そういうことですか」

奈緒「余計なこと言うな!」

P「では奈緒さん、事務所へ行きましょうか」

奈緒「行かないって言ってるだろ⁉ 2人とも人の話聞いてないのか⁉」

友達「まあまあ、映画は私が代わりに観とくからさ」

奈緒「映画観るのに代わりとか無くね⁉」

友達「入場特典はちゃんとあとであげるから」

奈緒「……え、いいのか? いやぁ、なんか悪いなぁ」

奈緒(まあ、特典が貰えるんならいいかな? 映画は後で見ればいいし)

P「では話もまとまったようだし、タクシーに」

奈緒「オッケー!」


あたしは男と一緒にタクシーに乗り込んだ。


P「じゃあ、346プロまでレッツゴー!」


そしてタクシーが動き出した瞬間―――あることに気付く。


奈緒「……ん? いや待て。あたしたちもう高校生だから、特典とかもらえないだろ!」


あたしが観ようと思っていた映画は、特典配布をするのは中学生まで。

神谷奈緒、現在高1もうすぐ高2。
友達、現在高1もうすぐ高2。
……もらえるわけがなかった。


友達「ばれたか……ま、もう遅いけどね。奈緒、頑張ってねー!」

奈緒「あとで覚えてろよ!」

6 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:17:58.63 ID:gbQcrLF00


―――タクシー内


奈緒「くそぅ……」

P「あ、そういえば……」

奈緒「何だよ……?」

P「お名前教えてもらってもよろしいですか?」

奈緒「神谷奈緒! しばらくほっとけ!」

7 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:19:26.11 ID:gbQcrLF00


―――346プロ前


P「ここが俺の事務所、346プロだ」

奈緒「ホントに来てしまった……」

P「どうだい? 結構大きいだろ?」

奈緒「確かにでかい……けど、それよりも気になることがあるんだけど」

P「何?」

奈緒「なんでこんなに建物が並んでるんだ?」

P「ああ、あっちにあるのは寮だ」

奈緒「寮?」

P「346プロに所属するモデルとか役者とかが住んでるんだよ。一応、アイドル寮もある」

奈緒「へー」

P「で、目の前にあるのが本社ビル。隣のは夏に完成予定の新本社ビルだ」

奈緒「ほー」

P「アイドル部門の事務所は、本社ビルの3階にある」

奈緒「このビルの3階か。これだけでかいビルなんだから、その事務所も広いんだろ?」

P「……そうだよ」


男は露骨に目を逸らした。


奈緒「おい、正直に言え」

P「……346プロはアイドルだけじゃなく、モデル部門とか、役者部門とかに分かれてるんだ。だからアイドル部門の事務所はこのでっかいビルのうち……一部屋だけ」

奈緒「え、こんだけでかいビルの、たった一部屋なのか?」

P「ひ、一部屋って言っても、わりと広いんだ。まあ、それ以外にもレッスン室とかあるし」

奈緒「ふーん、ビル内にレッスン室なんてあるのか」

奈緒(あたしもアイドルになったら、そこでレッスンするのかな。…………なるって決めたわけじゃないぞ⁉ か、勘違いするなよな! い、いや、誰に言い訳してんだ、あたし)

奈緒「と、ところでさ、あんたさっきから敬語とタメ口が混ざって気持ち悪いんだけど。どっちかにしてくれ」

P「オッケー、分かったでござる」

奈緒「新たに珍妙な喋り方すんな!」

P「冗談冗談。じゃ、これからは普通に喋ることにするわ。いやー、なんか堅苦しいの苦手なんだよな、俺」

奈緒「よくそれでプロデューサーが務まるな、あんた」

P「ふっ、まあな」

奈緒「いや、褒めてないんだけど」





凛「―――プロデューサー?」





奈緒「ん?」

8 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:20:32.30 ID:gbQcrLF00


P「よ、凛。今来たとこか?」

凛「うん、そうだよ。……プロデューサー、その子は?」

P「うちの新人アイドルだ」

奈緒「ああ! あたしは新人アイドルの―――って違う⁉ まだアイドルやるなんて言ってないだろ! 話聞きに来ただけだ!」

P「ふっ、『まだ』ということは、これからやると言うってことだろ?」

奈緒「ただの言葉の綾だから! そんな『分かってるぜ』みたいな目でこっち見んな!」

凛「プロデューサー、もしかしてスカウトしてきたの?」

P「そういうことだ」

凛「……珍しいね。スカウトなんて、全然してなかったのに」

P「あれが終わって一段落したことだし、そろそろ新戦力が増えてもいい頃だと思ってな」

凛「確かに、ずっと3人だったしね」

奈緒(……あたしにはよく分からん話をしてる)

凛「はじめまして、私は渋谷凛。あなたは?」

奈緒「あたしは神谷奈緒。まだアイドルやるかは分かんないけど、よろしくな」

凛「うん、よろしく」

P「奈緒、凛のことは知ってるだろ? 今、絶賛売り出し中だからな」

奈緒「え?……ま、まあな」
 
奈緒(凛……渋谷凛か。……え、えぇっと………………)


あたしは懸命に自分の中のアイドルの記憶を辿った。

……だが、出てきたのはアイドルアニメの映像だけだった!


凛「知らないなら知らないって言っていいよ。別に気にしないから」

奈緒「……悪い。正直知らない」

P「むぅ……まだまだ営業努力が足りないか」

プロデューサーが若干悔しそうな顔をしている。凛本人より、こいつの方が気にしてるな。

凛「プロデューサー、ここで立ち話していても仕方ないし、事務所に入ってもらおうよ」

P「それもそうだな。さ、行くぞ奈緒」

奈緒「……さっきから気になってたけど、あんた随分馴れ馴れしいよな」

9 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:21:26.92 ID:gbQcrLF00


―――346プロ アイドル部門


P「おはようございまーす」

ちひろ「おはようございます、プロデューサーさん。あ、凛ちゃんも一緒だったの?」

凛「うん。おはよう、ちひろさん」

ちひろ「おはよう、凛ちゃん。……? プロデューサーさん、そちらの方は?」

P「うちの期待の新人です」

奈緒「だから勝手に決めんな!」





卯月「え、新人さんですか⁉」

未央「突然すぎてびっくり仰天だよ⁉」





奈緒「あ、いや、ちが―――」

卯月「わー、この人がそうなんですね!」

未央「この事務所にも、ついに新人が入ってきたんだね!」

奈緒「いや、だからまだ新人とか――」

卯月「私、島村卯月って言います。これからよろしくお願いしますねっ♪」

奈緒「え⁉ いやこれからって――」

未央「私は本田未央。気軽に未央様って呼んでね」

奈緒「分かった未央さ――って呼ぶか! それだと、あたし家来みたいだろ!」

P「あ、俺のことはビッ○ボスでいいぞ」

奈緒「いつまでそれ引っ張るんだ! 呼ぶわけねぇだろ!」

卯月「私は卯月でいいですよ」

奈緒「だから呼ぶわけ――いや、普通の呼び方だった⁉ じゃ、じゃあ卯月はそう呼ばせてもらうな」

卯月「はいっ♪」

奈緒(この子、唯一の癒しだな……)

P「なんだよ、卯月だけひいきかよ……」

未央「世知辛い世の中だ……」

奈緒「ひいきとかじゃなくね⁉ あんたらの要求がおかしいだけだから!」
10 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:22:49.36 ID:gbQcrLF00

未央「ま、冗談はさておき、あなたの名前なんて言うの?」

奈緒「……神谷奈緒。奈緒でいいよ」

未央「そっか。よろしくね、かみやん♪」

奈緒「なんだその呼び方⁉ 奈緒でいいって言ったよな⁉」

凛「未央は人をあだ名で呼ぶのが好きなんだよ」

未央「そそ、しぶりんの言うとおり」

奈緒「しぶりん?」

卯月「凛ちゃんのことですよ。ついでに言うと、私はしまむーです」

奈緒「な、なるほど……かみやんは冗談じゃなかったのか」

奈緒「それでえーと、あなたは?」

ちひろ「私は346プロダクションの事務を担当している、千川ちひろと申します。神谷さん、よろしくお願いしますね」

奈緒「あ、はい。よろしくです」

P「さて、紹介も済んだことだし……奈緒、これから一緒にアイ活頑張ろうな!」

奈緒「おう!」

奈緒(よーし、目指すはトップアイドル―――)

奈緒「って、いやいやいやいやいや! あたしまだアイドルやるなんて言ってないだろ⁉ なんでやることになってるんだよ! ていうかこれ言うの何度目だ⁉」

未央「おぉ、中々のノリツッコミ!」

P「だろ? アイドルの素質あると思うんだ」

奈緒「ツッコミで分かる素質は芸人のじゃね⁉」

P「ま、とにかく話をさせてくれ。奈緒、そこのソファに座って」

奈緒「さっきからあたし、アイドルやる気どんどん無くなっていってるぞ……」

P「じゃあ率直に聞くが……アイドル、興味はあるか?」

奈緒「いや、無いって」

P「本当に?」

奈緒「ああ」

未央「本当に?」

卯月「本当ですか?」

凛「……本当?」

奈緒「詰め寄って来んな! あー、もうっ! ほ、ホントはちょっと……き、興味あるよ!」

P「やれやれ……最初から正直に言おうぜ?」

奈緒「うるせぇよ!」

P「で、アイドルに興味があるんなら、やってみないか?」

奈緒「いや、でも……」

卯月「やりませんか?」

凛「やらない?」

未央「やろうよ!」

奈緒「だからなんで詰め寄ってくるんだ!」

11 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:23:34.45 ID:gbQcrLF00

P「さてどうしたものか…………あ、そういえばさっき……」

奈緒「? なんだよ?」





P「奈緒、可愛い衣装着てみたいか?」





奈緒「か、可愛い衣装⁉ そ、そんな……そんなの、べ、別に着たくなんかないし! な、ないからな、ホントに! 何言い出してんだ急に!」

P「ふーん…………未央、『あれ』を持ってきてくれ」

未央「オッケー!」

奈緒「あれ?」

未央「はい、お待ちどう!」

P「サンキュー。さあ奈緒、このア○カツのDVDを今から一緒に観る―――って違う! 未央、なんでこんなもん持ってきてんだ!」

未央「だって『あれ』を持ってこいって」

P「お前の中で『あれ』って言ったらアイ○ツのDVDなの⁉ っていうか、誰だ事務所にこれ持ってきたの!」

凛「プロデューサーでしょ」

P「……あ、そうだっけ」

奈緒「お前かよ!」

P「ま、まあこれは置いといて。未央、持ってくるのは衣装だ」

未央「ならそう言ってよ。どの衣装?」

P「なんでもいい。テキトーに可愛いので」

未央「りょーかい」
12 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:24:14.62 ID:gbQcrLF00

―――少し経って


未央「こんな感じのでいい?」

P「ああ、十分だ。……奈緒、これ着たいか?」

奈緒「なっ⁉ そ、そんなこと一言も言ってないだろ⁉ なんなんださっきから!」

P「そうか悪かった。……あっ! 仕事のことで大事な話があるの思い出した。凛、卯月、未央、ちひろさん。ちょっと会議室に」

卯月「え?」

未央「なんでわざわざ会議室に行くの?」

ちひろ「私もですか?」

P「いいから。奈緒、悪いが少し待っててくれないか?」

奈緒「まあいいけど」


暇になったあたしは、部屋の中を眺めた。


奈緒「ふーん……これがアイドルの事務所か……」


視線をあちこち彷徨わせていると……衣装の所で視線が止まる。


奈緒「……衣装……」


扉の方を見る。


奈緒(……うん。……あいつら、まだ戻ってこない……)

奈緒「……ち、ちょっと触るだけなら……いいよな?」


恐る恐る衣装を手に取る。


奈緒「これがアイドルの衣装かぁ……。これ着てライブとかするんだよな……こ、こんな感じ?」


近くにあった鏡の前に移動し、衣装をあててみる。


奈緒「ふふーん、たらららーん♪……な、なーんて、へへっ」



《ガタッ!》



奈緒「⁉」

13 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:25:42.10 ID:gbQcrLF00

奈緒(なんだ今の物音⁉ まさか誰かいるんじゃ……⁉)


あたしは動きを止めたまま全神経を耳に集中すると……扉の方から、ひそひそと話し声が聞こえてきた。





P「卯月、音立てるなっ」

卯月「す、すみません」

未央「もう、しまむーったら!」

凛「未央も声が大きいよ」

ちひろ「静かにしないと気付かれちゃいますよ」





奈緒「……」


あたしは、それはもう静かな動作で、衣装を側にあるテーブルに置き、ゆっくりと扉へ近づいて行った。……よく見ると、少しだけ扉が開いている。


《ガチャッ!》



『あっ』



奈緒「な……な……何してんだ、お前らぁ――――――――っ⁉」

奈緒「ま、ままままさかずっと見てたのか⁉ 会議室行ったふりして、ずずずずっとここで覗いてたのか⁉」

凛「ううん、覗いたりなんてしてないよ」

ちひろ「ええ、そんなことしていません」


この2人、ポーカーフェイスを駆使している……!


P「の、覗くとか、ナンノコトヤラー」

卯月「み、みみみ見てないですよ?」

未央「ぴ、ぴゅーひゅるるー」

奈緒「とぼけるの下手か! 正直に言えっ!」

P「し、正直も何もないけど?」

奈緒(こ、こいつ、まだ誤魔化す気か。なら……!)

奈緒「……卯月」

卯月「は、はいっ⁉」

奈緒「怒らないから、どうか正直に言ってくれ。大丈夫、絶対に怒ったりしないから」

卯月「ほ、本当ですか?」

奈緒「ああ、信じろ。……覗いてた?」





卯月「覗いてました」





奈緒「やっぱり覗いてたんじゃねーか! ふざけんなっ!」
14 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:26:27.17 ID:gbQcrLF00

卯月「お、怒らないって言ったのにぃっ⁉」

未央「しまむー、チョロいにもほどがあるよ⁉」

凛「まあ言わなくても、あれじゃバレバレだっただろうけど……」

ちひろ「神谷さん、プロデューサーさんが全部悪いんです」

P「なに罪を俺1人に被せようとしてんですか! ちひろさんもノリノリで覗いてたくせに!」

奈緒「お、お前ら最低かっ! 何考えてんだ⁉」

P「いや、奈緒が衣装着たそうだったから、1人にすれば本心見せるかなーと」

奈緒「そ、それであたしはまんまと……み、見られているのにもかかわらず……あんな……あんな……」

P「思った通り、着たかったんだな」

奈緒「ち、違うっ! そん、そんなんじゃないっ! あ、あれ、あれはその、あれで……き、ききき、着たいとか、そういうんじゃなくて……とにかく違うんだっ!」

P「うんうん(にやにや)」

凛「着たくないんだよね(にやにや)」

未央「分かってる分かってる(にやにや)」

卯月「可愛いですよね、衣装(にまにま)」

ちひろ「ふふ、違うんですよね(にやにや)」

奈緒「そ、そのにやにや笑いを今すぐやめろぉーっ!」

15 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:26:58.50 ID:gbQcrLF00


―――数分後


奈緒「もう嫌だ……なんでこんな恥ずかしい目に……」


あたしはソファーで体育座りをしながら、ブツブツとこの世の不条理を呪っていた。


P「奈緒、そろそろ素直になってもいいんじゃないか? アイドル、やりたいんだろ?」

奈緒「……べ、別に、やりたくなんか……」

P「可愛い衣装、着たいんだろ?」

奈緒「そんなの、着たいとか思ってねぇし」

凛「今更それは無理があると思うけど」

奈緒「う、うっさい!」

P「奈緒、ここからは真面目に聞いてくれ」

奈緒「……なんだよ」

P「やりたいっていう気持ちが少しでもあるんなら……アイドル、やってみないか? 俺は、奈緒を本気でプロデュースしたい」


男は、これまで見た中で1番真剣な目をしていた。


奈緒(こいつ、こんな目も出来るのか……)

P「踏み出すのに、勇気がいるのは分かる。でも、一歩踏み出してみないか? 踏み出した先には、新しい世界が広がってるはずだ。俺と一緒に……いや、俺だけじゃないな」


男は卯月、凛、未央、ちひろを見渡してから、告げる。



P「俺たちと一緒に、その先へと進んで行こうぜ。絶対に後悔はさせないからさ」



その言葉に、あたしの心はまた……揺れ動いた。
16 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:27:56.72 ID:gbQcrLF00

奈緒「……あんたってさ」

P「ん?」

奈緒「口下手だと思ってたけど、案外口が上手いな」

P「プロデューサーだからな」

奈緒「なんだそれ。……じゃあ今回は、あんたの口車に乗せられてやるか」

卯月「じゃあ、奈緒ちゃん……!」

奈緒「その……ア、アイドル、やらせてもらうよ」

凛「奈緒、ようこそ346プロダクションへ」

未央「歓迎するよ、かみやん♪」

P「これでうちの4人目のアイドル誕生だな」

奈緒「4人目? 卯月、凛、未央、あたし……え、これで全員? 少なくね? 今この場にいないだけで、もっといるのかと思ってたんだけど」

P「うちのアイドル部門、去年新設されたばかりでな。それに色々事情もあったりで、ずっと3人だったんだ」

奈緒「事情って?」

P「……大人の事情だ」

奈緒「出た! 何かを誤魔化すのに便利な言葉、大人の事情!」

P「やかましい! とにかく奈緒、うちに入ったからには大船に乗ったつもりでいていいぞ。必ずお前を立派なアイドルにしてやるからな」

奈緒「……その大船、タイタ○ック号じゃないよな?」

P「いや、サント・ア○ヌ号かな」

奈緒「それアニメだと沈むんだけど⁉」





―――あたしの出会いと波乱に満ちたアイドル生活は、こうして幕を開けたのだった。




第1話 おわり
17 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 20:29:53.24 ID:gbQcrLF00
とりあえず、1話終わりです。
2話以降もちょいちょい上げてこうと思います。
18 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:06:41.11 ID:gbQcrLF00
第2話 可憐な彼女は花蓮のように



―――???


奈緒「……ふにゅう……ふぁ……あれ?」


目が覚めると、そこは見知らぬ天井だった。


奈緒「ここどこだ⁉ あたしの部屋じゃないし!」


《ガチャ―――》


未央「かみやん、朝からどしたの?」

奈緒「未央⁉ なんで……あー、そっか。あたし、昨日から寮に入ったんだっけ」

未央「ははーん、さてはかみやん、寝ぼけてたね?」

奈緒「なんかそうみたいだ。顔洗って目を覚ますよ」

未央「そうしなよ。朝ごはんもう準備できてるからさ。食堂に来てね」

奈緒「ああ、分かったよ」

19 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:07:16.52 ID:gbQcrLF00


―――346プロ アイドル寮 食堂


奈緒「うまっ! 未央って料理上手いんだな。なんか意外」

未央「ふふん、これくらいは女の嗜みってやつさね」

奈緒「これからは毎日交代で作ってくんだよな……あたし、ここまで上手く作れないぞ?」

未央「いいって。料理は愛情だから。作る人も食べる人もね」

奈緒「なるほどなー。じゃ、せいぜいたっぷりと愛情を籠めて作ることにするよ」

未央「ラブパワーたっぷり注入してね?」

奈緒「いや、ラブじゃなくてライクだけど。……にしてもこの寮って今、あたしたち2人しかいないんだよな」

未央「そーだよ。かみやんが来るまでは私1人だったんだから。しぶりんとしまむーは実家だし」

奈緒「2人は実家が東京だもんな。わざわざ寮に住む必要ないか」

未央「その点、私たちは千葉だから、寮住まいの方が楽なんだよね」

奈緒「だな。せっかくの寮なのにあたしたちだけっていうのは、少し寂しい気もするけど」

未央「正確には、管理人のおばちゃんもいるけどね」

奈緒「あ、そういやそうか」

20 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:07:56.38 ID:gbQcrLF00


―――346プロ アイドル部門


奈緒「おはよーございまーす」

未央「やっぴー」

奈緒「なんだその挨拶」

ちひろ「おはよう、2人とも。未央ちゃん、今日はなんだかご機嫌?」

未央「えへへー、まーね。かみやんが寮に来てくれて、ようやく寂しい1人暮らしから脱却出来たからさ」

ちひろ「ふふっ、そういうことね。奈緒ちゃん、寮は気に入ってもらえた?」

奈緒「いいとこだと思うよ。逆にちょっと落ち着かないけど」

未央「すぐに慣れるって」

奈緒「そーかな。そういえばちひろさん、プロデューサーは?」

ちひろ「まだ来られてないの。多分、遅刻だと思うけど」

未央「たまにするんだよね」

奈緒「あいつ、社会人失格だろ」


《ガチャ―――》


P「うぃーっす」

奈緒「出たな人間失格」

P「出勤早々なんだいきなり⁉」

奈緒「いや、遅刻とはいいご身分だなぁと思ってさ」

P「遅刻じゃないわい! まだ出勤時間には10分も余裕あるんだよ!」

奈緒「え、そうなのか? でもちひろさんが遅刻だって」

ちひろ「プロデューサーさん、今日はいつもより30分早く来ていただくことになっていたはずですが……」

P「……あ、そういえばそうでしたね」

奈緒「やっぱり遅刻じゃんか」

21 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:08:30.37 ID:gbQcrLF00


―――数十分後


凛「じゃあ奈緒、私たちは仕事に行ってくるね」

卯月「いってきます、奈緒ちゃん」

未央「かみやんも頑張ってねー」

奈緒「ああ、そっちも頑張れよなー」


《ガチャ―――バタン》


奈緒「で、あたしは何すればいいんだ? やっぱりレッスンするのか?」

P「奈緒は今日、俺と一緒だ」

奈緒「うん? どういうことだよ」

P「ま、とりあえず付いて来てくれ。ちひろさん、いってきます」

ちひろ「いってらっしゃい、プロデューサーさん、奈緒ちゃん」

22 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:10:24.42 ID:gbQcrLF00


―――街中


奈緒「言われるがまま付いてきたけど、こんな街中で何するんだ?」

P「じゃ、俺はこっちの方見てるから、奈緒はそっちな」

奈緒「……は?」

P「……」

奈緒「……」

P「……」


無言の時間が流れる。


奈緒「いや説明しろよ! あたし何すればいいんだよ!」

P「何って……なんかいい感じの子を見つけてくれればいいから」

奈緒「なんだそれ⁉」

P「だから、今日奈緒は、俺と一緒に新人アイドルをスカウトするんだよ」

奈緒「なんで⁉ アイドルってスカウトはされても、する方じゃなくね⁉ あんたの役目だろ、それ!」

P「しょうがないだろ。今日、奈緒はレッスンの予定だったんだけど、担当のトレーナーさんが風邪ひいたらしくて来られないんだとさ。だから丸々予定空いちゃったんだよ」

奈緒「マジか……」

P「そして俺も仕事の予定が相手方の都合でキャンセルになっちゃってな。同じく予定が空いた。で、それなら暇人2人でスカウトしに行こうかと思ってな」

奈緒「思ってなじゃないだろ! せめて事前にあたしに伝えろよ!」

P「悪い悪い、ちひろさんが伝えたと思ってたんだ」

奈緒「む……なら、しょうがないか」

P「それで、スカウト手伝ってくれるか?」

奈緒「いいよ、どうせ暇らしいしな」

23 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:10:52.29 ID:gbQcrLF00


―――1時間後


ナンパ野郎「へい彼女! 可愛いねー、一緒にお茶しない?」

ギャル「え、何? 悪いけどそういうのお断りだから」


ナンパ野郎が女子高生に声をかけて、撃沈していた。


ナンパ野郎「くっ、失敗か……」


ナンパ野郎――もとい、プロデューサーがそんなことを呟く。


奈緒「……スカウトが? それともナンパが?」

P「スカウトに決まってるだろ!」

奈緒「今の台詞は完全に怪しいナンパだろ! スカウトする気ホントにあるのか⁉」

P「うーむ……もしかして言葉選びが駄目?」

奈緒「もしかしなくても駄目だよ! さっきから1人も成功してないだろ! 話すらまともに出来てないぞ!」

P「むっ、じゃあ次は奈緒がやってみろよ。意外と難しいんだぞ」

奈緒「あ、あたしか⁉」

P「ああ。そして俺の苦労を知れ」

奈緒「なんでそうなるんだ……」

P「じゃあ次にいい感じの子を見つけたらアタックしてみてくれ」

奈緒「まあいいけど……その言い方、ナンパみたいだからやめろよな」

P「……」

奈緒「…………お、あの子とかいいんじゃないか?」

P「どの子だ?」

奈緒「あの子」


あたしの指した先には、街路樹に寄りかかってスマホをいじっている少女がいた。


P「ふむ、確かにいいかもな……」

奈緒「だろ? なんかビビッときたんだ」

P「よし、行け奈緒。俺はここから見守ってるぞ」

奈緒「ついて来ないのかよ!」

24 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:11:36.70 ID:gbQcrLF00


―――あたしは、その少女に近づいて声をかけた。


奈緒「なあ、ちょっといいか?」

加蓮「ナンパなら、どっかいってよ。そーゆーの、興味ないから」

奈緒「ちげーよっ! スマホ見てないでこっち見ろ! あたし、女だろ⁉ ナンパなんかするか!」

加蓮「……ん、それもそっか。なら、どちら様?」

奈緒「あたしは神谷奈緒って言うんだけど……あんたをアイドルにスカウトしたいんだ」

加蓮「……スカウト? なにそれ、なんの冗談?」

奈緒「いや確かにうさんくさいかもだけど、マジな話だ。これがプロデューサーの名刺」

加蓮「プロデューサー……?」

奈緒「本人はあれだ。あそこの―――」



P『あ、時限イベ始まってる』



奈緒「なんでスマホゲーやってんだ!」

加蓮「あれがプロデューサー……?」

奈緒「い、一応プロデューサーなんだ。で、あたしはあいつのプロデュースするアイドル」

加蓮「アンタがアイドル? 全然テレビとかで見たことないけど」

奈緒「そりゃそうだ。あたし、先週アイドルになったばっかりだから」

加蓮「……へー、そーなんだ。じゃ、そういうことで」

奈緒「流れるようにこの場から離れようとしないで⁉ 嘘っぽいけどホントなんだって!」

加蓮「……ま、その必死さに免じて信じてあげてもいいけど。でもなんでアイドルのアンタがスカウトしてるの? そういうのってプロデューサーの仕事じゃない?」

奈緒「確かにそうなんだけど……あいつはスカウトの才能がゴミクズなんだ」


P『おい、聞こえてるぞ! 誰がゴミクズだ!』


奈緒「お前はそのまま黙々とスマホゲーやってろ!……で、仕方ないからあたしが代わりにスカウトすることになったんだよ」

加蓮「なるほどね。……でも、なんでアタシなわけ?」

奈緒「なんていうかこう、ビビっときたからかな。なんか、うちの事務所の他のアイドルと似たようなもん感じたんだ」

加蓮「何それ。でも……アタシがアイドルに? ふぅん……アタシがアイドルねー。昔、病院のテレビでよく見てたなー、アイドル番組。ふふっ」

奈緒(病院……?)

加蓮「あ……ごめん。やっぱいいや。名刺、返すよ。アイドルなんて……そんな夢みたいなこと、叶うわけないから。声かけてくれたのは嬉しいんだけどさ、アタシには無理だから」

奈緒「無理って……なんか病気とかなのか?」

加蓮「ううん、今は違うけど……だってアタシ、いろいろ最低最悪でさ……。今はもう、なんか人生諦めムード入ってるんだよね。だから、バイバイ。悪いけど他探して」

奈緒「あ、ちょっと!……行っちゃったし。何かあるのかな、あいつ……」



P「―――やっぱり失敗したか。どうだ、スカウトって難しいだろ?」



奈緒「スマホゲーしてたやつが偉そうに言うな!」


25 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:12:05.53 ID:gbQcrLF00


―――346プロ アイドル部門


奈緒・P『ただいまー』

ちひろ「お疲れ様です、2人とも。スカウト、どうでしたか?」

奈緒「駄目。全滅だよ」

P「何人か良さそうな子はいたんですけどね」

奈緒「プロデューサーのおかげで、全員まともに話すらさせてもらえなかったんだ」

ちひろ「プロデューサーさんって、そんなにスカウト下手でしたっけ?」

P「いや、そんなことは無いと思うんですが……」

奈緒「どの口が言うんだ」

P「お前だって1人失敗しただろうに」

奈緒「そうだけど……でもあの子はなんかワケアリっぽかったんだよなぁ」

P「奈緒……言い訳は見苦しいぞ?」

奈緒「あんたホントにむかつくな」

ちひろ「まあまあ」


《ガチャ―――》


卯月「ただいま戻りましたー」

未央「やっぷー」

凛「なにその挨拶」

奈緒「お、みんなお疲れー」

P「どうだった? 今日の仕事、うまくいったか?」

凛「うん、大体は」

未央「しまむーがちょっとこけたくらいかな」

卯月「い、言わないでよぉ、未央ちゃん」

P「大丈夫だ。それはいつものことだから失敗には含まれん」

卯月「プロデューサーさぁん!」

未央「それでかみやんは今日どうしてたの? やっぱりレッスン?」

奈緒「いや、プロデューサーとスカウトしてた」

凛「? なんで奈緒がスカウトなんてしてるの?」

奈緒「レッスンが急に休みになってさ。暇だからプロデューサーに付き合ってたんだ」

卯月「レッスン休みになっちゃったんだ。残念だね」

奈緒「まあなー」

未央「どんまい、かみやん。……そうだ。今日の夕飯、かみやんの好きなもの作ってあげるよ。何がいい?」

奈緒「え、いいのか?」

未央「リクエストしてくれた方が、作りやすいしさ」

P「俺、かつ丼がいい」

奈緒「プロデューサーは関係ないだろ⁉ 勝手に一人で食ってろよ!」

未央「オッケー! じゃ、今日の夕飯はかつ丼ね」

奈緒「それ採用するんだ⁉」

26 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:12:59.52 ID:gbQcrLF00


―――翌日


P「奈緒、トレーナーさんはまだ風邪が治らないらしくて、レッスンは今日も休みだ」

奈緒「またか……ま、昨日の今日だし、そうだよな」

P「今日は俺も卯月たちに付いてかなきゃいけないから、奈緒はテキトーに過ごしててくれ。いわゆるオフってやつだ」

奈緒「まだ仕事もしてないのにオフって……あっ、なら今日は映画でも観に行こうかな。この前はどっかの誰かのせいで見られなかったし」

P「……。……ま、まあ好きにしてくれ。じゃ、3人とも行くぞー」

卯月「はい、プロデューサーさん」

凛「奈緒、ちひろさん、いってきます」

未央「かみやん、今日の夕食当番忘れないでねー」

奈緒「ああ、分かってるって。いってらっしゃい」

ちひろ「みなさん、頑張ってきてくださいね」


《ガチャ―――》


奈緒「それじゃ、あたしも行くことにします」

ちひろ「はい、いってらっしゃい奈緒ちゃん」

27 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:13:53.75 ID:gbQcrLF00


―――街中


奈緒(今日こそあれを見られる……わくわくが止まらない……!……ん? あいつ……)


視線の先には、昨日あたしがナン――スカウトしようとした少女がいた。


奈緒(昨日の……そういえばあいつとの最後のやり取り……)


『だってアタシ、いろいろ最低最悪でさ……。今はもう、なんか人生諦めムード入ってるんだよね。だから、バイバイ。悪いけど他探して』


奈緒(普通に断られるんならともかく、あれはなんか気になるよな……。あ、そうだ。ちょうど2枚あるし……)


あたしは少女に近づき、声をかける。


奈緒「よ、奇遇だな」

加蓮「? またアンタ……? しつこいんだけど」

奈緒「今日は別にスカウトしに来たわけじゃないって。ホントに偶然通りかかっただけ」

加蓮「どうだか」

奈緒「えっと……そういえば、名前なんて言うんだ?」

加蓮「……加蓮だけど」

奈緒「加蓮か。加蓮は昨日も一人でいたけど、誰かと待ち合わせでもしてるのか?」

加蓮「別に。1人でぶらついてるだけ」

奈緒「へぇ……暇なの?」

加蓮「……その言い方は気に入らないけど」

奈緒「実はあたしも暇なんだ。……あ、良いこと思いついた。加蓮、あたしと映画観に行かないか?」

加蓮「はぁ? なんでアタシがアンタと映画観なきゃいけないの?」

奈緒「どうせ暇なんだろ? ちょっと付き合ってくれてもいいじゃんか。安心しろ、オススメの映画だから」

加蓮「いや、知らないし」

奈緒「1人でいるより、2人のが楽しいって! さ、映画館にレッツゴー!」

加蓮「ちょ、なんなの⁉」


あたしは戸惑う加蓮の手を握り、無理矢理映画館へと引っ張っていった。

28 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:14:20.94 ID:gbQcrLF00


―――映画館前


加蓮「ホントに映画館まで引っ張ってこられたし……それで、映画って何観るの?」

奈緒「ふっふっふ……あれだ!」

加蓮「あれって……ま、まさかプ○キュア?」

奈緒「そう! この前観るはずだったんだけど、邪魔が入って見れなかったんだよなぁ」


なぜか、加蓮が可哀想なものを見る目であたしを見てくる。


加蓮「アンタ……その歳でまだプリ○ュアとか見てるの?」

奈緒「う、うるさいな。いくつになっても面白いものは面白いの! ほら、前売り券2枚あるから、代金は心配しなくていいし」

加蓮「ホントにアタシも観るわけ……?」

奈緒「加蓮はプリキュ○見たことあるのか?」

加蓮「昔は見てたけど、今のは全然知らないよ」

奈緒「昔見てたんなら大丈夫。オールスターズだから」

加蓮「なにそれ」

奈緒「ま、観れば分かるって。入ろ入ろ」

加蓮「……なんでこんなことになってるの?」

29 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:14:46.42 ID:gbQcrLF00


―――2時間後


奈緒「いやー、やっぱ○リキュアはいいなぁ! 加蓮はどうだった?」

加蓮「まあ、思ってたよりはね。アタシの知ってるプリキュ○も出てたし……なんだか昔を思い出したよ」

奈緒「あたしはもう高校生だから、入場特典のミラクルライトが貰えないのだけが不満だけど……ま、仕方ないか」

加蓮「アンタ本当にプリ○ュアが好きなんだね」

奈緒「まあなー」

加蓮「なんとかライトだっけ。……そういえばアタシはぎりぎり中3だから貰ったけど、これあげよっか?」

奈緒「いいの⁉」

加蓮「いや、アタシいらないし。映画の代金もアンタが払ったんだし」

奈緒「じゃ、じゃあ遠慮なく……やったぁ!」

加蓮「満面の笑みだね、アンタ」

奈緒「はっ⁉ べ、別にそこまで嬉しいわけじゃないし! ほ、ホントだからな⁉」

加蓮「はいはい」

奈緒「さ、さてこれからどうする? 加蓮はどっか行きたいとことかある?」

加蓮「そうだねアタシは……待って。なんでこの後もアンタと一緒に行動する感じになってるの?」

奈緒「いいじゃんか。このまま今日1日、一緒に遊ぼう」

加蓮「あのねぇ……映画に付き合ってあげたんだから、もう十分でしょ」

奈緒「そんな冷たいこと言うなって。加蓮を映画に付き合わせたから、今度はあたしが加蓮に付き合うよ」

加蓮「いや、別にいいんだけど……」

奈緒「遠慮しない遠慮しない」

加蓮「むしろアンタが遠慮しなさすぎだと思うんだけど!」

30 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:15:18.42 ID:gbQcrLF00


―――???


奈緒「で、なんだこの店? これ何? プラモの塗料?」


店に置いてあった塗料らしきものを手に取る。


加蓮「何言ってんの? それはマニキュアでしょ」

奈緒「マニキュア……あ、ああマニキュアな! あの……あれだよな!」

加蓮「……アンタもしかして、マニキュア知らないの?」

奈緒「……プ○キュアと関係あったりする?」

加蓮「全然関係ないから。ほら、これ」


加蓮が自分の指を見せてくる。


奈緒「爪?……伸ばしすぎだろ、危ないぞ」

加蓮「アタシの勝手でしょ! そうじゃなくて爪に塗ってあるやつ! これがマニキュアなの!」

奈緒「あ、そっちか。へー、これ自分でやったのか?」

加蓮「まあね。一応、ネイルはアタシの趣味だから」

奈緒「ネイルか……なんか聞いたことあるかも」

加蓮「聞いたことあるって……アンタ本当に女子高生なの?」

奈緒「れっきとした女子高生だよ! ネイルしてない女子高生だっていっぱいいるだろ!」

加蓮「マニキュアをプラモの塗料と間違えるのはそんなにいないと思うけど」

奈緒「……よくあることだろ、多分」

加蓮「いや、まず無いから」

31 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:15:57.29 ID:gbQcrLF00


―――某ファーストフード店


加蓮「あ~、この体に悪い感じ、たまんない♪」

奈緒「マッ○ポテト食ってそんな感想言うやつ、初めて見た」

加蓮「アタシもその歳でハッピー○ット頼む人、初めて見たけどね」

奈緒「い、いいだろ別に。ハッ○ーセットのおもちゃはここでしか手に入らないんだから」

加蓮「ふぅん……」

奈緒「そ、それより加蓮は○ック好きなのか?」

加蓮「マ○クっていうか……いわゆるジャンクフードが好きなの」

奈緒「へー、ジャンクフードねぇ……」

32 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:16:34.90 ID:gbQcrLF00


―――カラオケボックス


奈緒「加蓮は何歌うー?」

加蓮「まずアンタが歌っていいよ。どうせアニソンだろうけど」

奈緒「決めつけんなよ!」

加蓮「違うの?」

奈緒「……当たりだけどさ」

加蓮「やっぱりそうなんじゃん。で、何歌うの? やっぱりプリキュ○?」

奈緒「だから決めつけんなよ! あたしが歌うのは君の知らな○物語! だからプリ○ュアは加蓮に譲る!」

加蓮「アタシは別にプリ○ュアとか歌いたくないんだけど⁉」

奈緒「ドキ○リのOPでいい?」

加蓮「良くないから。それ知らないし、歌えないから」

奈緒「ぴっぴっぴと……よし」

加蓮「ねぇ、勝手に曲入れないで」

33 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:17:08.81 ID:gbQcrLF00


―――公園


あたしと加蓮は、公園のベンチで小休止していた。

奈緒「あー、歌った歌った」

加蓮「結局、一日中アンタと一緒って……」


加蓮は小さくため息をついた。


加蓮「あのさ……」

奈緒「ん?」

加蓮「どうしてアタシのこと引っ張りまわすわけ?」

奈緒「どうしてって……一緒に遊びたかったからだけど」

加蓮「だから、なんでそんな風に思うのかって訊いてるの。アンタとは友達でもなんでもないでしょ」

奈緒「え……」

加蓮「あ、いや、うん、もう友達かも。だからそんな悲しそうな目で見るのやめて」

奈緒「べ、別にそんな目では見てないけど、あたしはもう加蓮のこと友達だと思ってるからな」

加蓮「あっそ……じゃあ訊き方変える。なんで今日、アタシにまた話しかけたの? あの時点では、友達でもなんでもないでしょ?」

奈緒「それは……ちょっと、加蓮のことが気になって」

加蓮「え、アンタそういう趣味……やっぱり昨日のはナンパ……⁉」

奈緒「そういう気になるじゃねーよ!」

加蓮「じゃあ、何が気になったわけ?」

奈緒「昨日、なんか言ってただろ? 最低最悪だの、人生諦めムードだの」

加蓮「ああ、そういえばそんなこと言ったっけ……」

奈緒「それに加蓮の目。つまんなそうっていうか、寂しそうっていうか……そんな感じの目だったからさ」

加蓮「……ふぅん。やっぱり、そういうことか」

奈緒「? なんだよ、やっぱりって」

加蓮「つまり、そんな可哀想に見えたアタシを哀れんだってことでしょ? ホント……そういうの、もういい加減にしてほしいんだけど」

奈緒「な、なに急に不機嫌になってんだ、加蓮」

加蓮「アタシ、もう行くから」

奈緒「は?」

加蓮「もうアンタに付き合う気はないって言ってんの。じゃ、ばいばい」


そう言うと、加蓮はベンチから立ち上がった。


奈緒「いやいやいや! 『じゃ』じゃないだろ! 待てよ、加蓮!」


加蓮を行かせまいと、あたしはその手首を掴む。


加蓮「手、離して。もうアンタの顔見るだけでイライラするから」

奈緒「なんだそれ! あたし、何か怒らせるようなこと言ったか⁉」

加蓮「いいから離せって言ってんでしょ!」

奈緒「そんなこと言われて離すわけないだろ! 今手を離したら、あたし、加蓮と喧嘩したまま別れることになるじゃんか!」
34 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:17:36.19 ID:gbQcrLF00

加蓮「は、はぁ? 別にいいでしょ、それで。もう会うこともないんだし」

奈緒「いいわけあるか! せっかく仲良くなったのに、このままサヨナラなんて、絶対に嫌だからな!」

加蓮「! あ、アンタ……」

奈緒「そ、それに……あ、そうだ、スカウト」

加蓮「す、スカウト?」

奈緒「そう、スカウト! あたしのスカウト、まだ終わってないぞ! 加蓮には346プロでアイドルやってもらうんだ。逃げられてたまるか!」

加蓮「なに勝手に決めてんの⁉ やらないって昨日言ったでしょ⁉」

奈緒「実は今日一緒に遊んだのも、スカウトのためなんだからな」

加蓮「さっき『あ、そうだ』って聞こえたけど⁉ 今考えたでしょ、それ!」

奈緒「そうだよ、今考えたよ!」

加蓮「開き直った!」

奈緒「あたしが加蓮と今日一緒に遊んだのは、スカウトとか関係ない! それに……哀れんだわけでもない! いや、最初に話しかけた時は、正直そういう気持ちもあったかもだけど、そんなの映画観た辺りでなくなった! ただ一緒にいて楽しかったから、一緒に遊びたかったんだ!」

加蓮「た、楽しかった……? そんな理由……?」



奈緒「友達と一緒に遊ぶ理由なんて、それで十分だろ!」



加蓮「! アンタ、本当に友達って……」

奈緒「思ってるって言っただろ」

加蓮「……。…………ふふっ。そっか、分かった。アンタ、相当な変わり者なんだ」

奈緒「え、その言い方は酷くない?」

加蓮「アンタ……えっと……そういえば、名前なんて言ったっけ?」

奈緒「今日一日一緒にいたのに、あたしの名前も覚えてなかったの⁉ 滅茶苦茶ショックだぞ!」


そういえば一度も名前を呼ばれていないことに気付く。


加蓮「だ、だから、ちゃんと覚えるために、聞いてるんでしょ!」

奈緒「なんでそっちがキレてるの?……神谷奈緒だよ。もう忘れるなよな」

加蓮「神谷奈緒……奈緒ね。うん、今度は覚えた。アタシは北条加蓮」

奈緒「それは知ってる……あ、そういや苗字は聞いてなかったっけ」

加蓮「ちゃんと覚えてよね」

奈緒「よくその台詞言えるな!」

35 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:18:52.37 ID:gbQcrLF00


―――加蓮は再び、ベンチへと腰を下ろした。


加蓮「……ねぇ奈緒、ちょっと話付き合ってよ」

奈緒「? いいけど」

加蓮「……アタシさ、小さい頃から病弱で、長い間入院してたんだ」

奈緒「入院……そっか。病院のテレビとか言ってたのって……」

加蓮「そういうこと」

奈緒「今はもう……大丈夫なんだよな?」



加蓮「けほっ、こほっ」



奈緒「大丈夫じゃない⁉」

加蓮「なーんて、今はもう全然平気」

奈緒「おどかすな!」

加蓮「まあ、ちょっと人より体力はないと思うけどね。それでも、日常生活には何ら問題ないし」

奈緒「……なら良かったよ」

加蓮「だけど、やっぱり長いこと入院してたっていうことで、家でも、学校でも、そういう風に見られるんだよ」

奈緒「そういう風?」

加蓮「いまだに病人扱いされるってこと。ホント、勘弁してほしいんだけどね」

奈緒「でも……それは加蓮を心配してるからだろ?」

加蓮「まあ、そうなんだろうけど……。それでもうざったいことに変わりないの」

奈緒「……あ、さっき怒ったのって」

加蓮「そういうこと」

奈緒「そっか……。…………。……じゃあさ、加蓮」

加蓮「何?」

36 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:19:24.91 ID:gbQcrLF00

あたしはベンチから立ち上がり、加蓮を正面から見つめて、告げた。



奈緒「一緒にアイドルやろ!」



加蓮「なんでそうなるの⁉」

奈緒「アイドルやって、今の加蓮は全然元気だって、みんなに教えてやればいいじゃんか。 ステージの上で加蓮が歌って踊ってるの見たら、みんなの心配なんて吹き飛ぶって」

加蓮「え、えぇ……? そ、それはそうかもしれないけど……」

奈緒「アイドル、全然興味ない?」

加蓮「なくはその……ないけど」

奈緒「じゃあやろ! あたしはもう、加蓮をそんな目で見たりしない。っていうか加蓮、今日一日あちこちで一緒に遊んで、ずっと元気だったし」

加蓮「で、でもアイドルとかそんなの、アタシには無理だし」

奈緒「なんで? 自分で言ってたじゃんか。今はもう全然平気って」

加蓮「言ったは言ったけど……」

奈緒「……あ、なるほど。ビビってるんだな」

加蓮「……は?」

奈緒「だって、体は平気、アイドルに興味もある、なのにやらないってことは、そういうことだろ?」

加蓮「……」


なんか、加蓮の体がぷるぷると震えている。


奈緒「そうかぁ……ビビってるんじゃ、しょうがないよな。挑戦するの、怖いんだもんな……ぷふっ」

加蓮「(ぶちっ!)」


加蓮から何かがキレたような音が聞こえると、加蓮は勢いよくベンチから立ち上がった。





加蓮「やるよ! やればいいんでしょやれば! アイドルだろうとなんだろうと、そんなの余裕だからっ!」





奈緒「そっか! じゃあ一緒に頑張ろうな!」

加蓮「もち!……はっ⁉ あ、いや、今のな――」

奈緒「よろしく、加蓮!」

加蓮「な、奈~緒~~~っ!」


それからしばらく、あたしと加蓮は公園で追いかけっこを続けた。

37 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:20:07.16 ID:gbQcrLF00


―――346プロ アイドル部門


奈緒「というわけで、加蓮連れてきたぞ」

加蓮「ど、どーもー。北条加蓮でーす」

P「というわけって何⁉ なんだその子⁉」

奈緒「ほら、プロデューサー。昨日あたしがスカウトした子だよ」

P「え? あー、そういえば昨日の子だな」

加蓮「そういうあなたは、昨日のスマホゲーの人ですよね?」

凛「スマホゲー?」

P「……いや、それはなんのことだか分からんが。え、でもなんで? 奈緒、お前今日は映画観に行ったんじゃなかったのか?」

奈緒「行ったよ。加蓮と一緒に」

P「いつの間に交友関係を⁉」

卯月「奈緒ちゃん。つまり奈緒ちゃんがその子をスカウトしてきたっていうこと?」

奈緒「あー、まあそうなるのかな」

未央「すごいね、かみやん! プロデューサーは数か月かかってようやく2人目だったのに、かみやんは2日で1人スカウトしちゃったよ!」

P「うぐぅっ⁉」

凛「奈緒、プロデューサーより全然スカウトの才能あるよ」

P「うぐぐぅっ⁉」

ちひろ「これは社長に報告案件ですかね」

P「俺が無能って報告する気ですか⁉ 勘弁してください!」

奈緒「それでさ、プロデューサー。加蓮のこと、あたしが勝手にスカウトしてきちゃったけど……大丈夫かな?」

P「……まあ、俺もその子は良いと思ってたしな。その子がアイドルやる気あるって言うなら、こっちは大歓迎だ」

奈緒「良かったぁ。連れて来といて駄目だったら、どうしようかと思ってたんだ」

加蓮「えっと……じゃあアタシ、ここでお世話になっていいのかな?」

奈緒「ああ。加蓮はもう、あたしたちの仲間だ」

加蓮「じゃあ……みなさん、これからよろしくお願いします!」

38 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:21:04.00 ID:gbQcrLF00

奈緒「よろしくな、加蓮」

凛「私は渋谷凛。これからよろしくね、加蓮」

加蓮「うん。よろしくね、凛」

卯月「島村卯月です。卯月って呼んでくださいね」

加蓮「卯月、よろしくね。私のことは加蓮でいいよ」

ちひろ「事務員の千川ちひろです。何か困ったことがあったら、いつでも私に言ってくださいね」

加蓮「はい。その時はよろしくお願いします、ちひろさん」

未央「私は本田未央! 気軽に未央様って呼んでね!」

加蓮「オッケー、未央様」

未央「ホントに呼んでくれた⁉ うぁーっ、でも実際呼ばれるとくすぐったい! 普通に未央って呼んで!」

加蓮「ふふっ、分かったよ、未央」

P「あ、俺のことはビッ○ボスでいいぞ」



加蓮「オッケー、ボ○ブラック」



P「ホントに呼んでくれ――てない⁉ なんか違う! それじゃ俺、缶コーヒーじゃん!」

奈緒「呼んでもらえて良かったな、缶コーヒーP」

凛「その呼ばれ方、似合ってるよ」

P「嘘つけ! そのにやけ顔はなんだ! うぅ……もう普通にプロデューサーって呼んでくれぇ」

加蓮「ふふっ、りょーかい、プロデューサー」

39 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:25:55.16 ID:gbQcrLF00


―――数日後、346プロ アイドル寮 玄関


奈緒「なんだ、この大量の荷物⁉」

加蓮「やっほー♪」

奈緒「加蓮⁉」

未央「かれん、これどうしたの?」

加蓮「私も今日から、ここに住むんだー」

奈緒「そんなの聞いてないぞ⁉」

加蓮「だって言ってなかったし。驚いた?」

奈緒「そりゃ驚くわ! ていうか加蓮、実家東京だろ? わざわざ寮に住む必要あるのか?」

加蓮「だってここのが事務所に近くて楽だしさ。それに奈緒と未央が一緒なら、退屈しなさそうだしね」

奈緒「退屈って……」

未央「私は寮に人が増えるのは大歓迎だよ。よーし、今日はかれんの歓迎会だー!」

奈緒「あたしの時はそんなのやってなくね⁉」

加蓮「じゃあまとめてやろうよ。2人分の歓迎会をさ」

未央「いいねー、そうしよ!」

加蓮「あ、でもその前に荷物運ぶの手伝ってくれない? さすがに一人じゃきつそうだから」

未央「うん、任せて。さ、かみやんも早く!」

奈緒「分かってるよ。まったく……」

奈緒(なんだか、楽しくなりそうだな)

加蓮「ん? 何か言った?」

奈緒「何でもないよ。さ、とっとと運ぼうぜ」

加蓮「よろしくね、奈緒。私、応援してるから!」

奈緒「おっけ、任せろ!……いや、お前も運べよ!」

加蓮「えぇー……だって重いじゃん」

奈緒「あたしだって重いよ! ほら、そっち持て!」

加蓮「しょうがないなぁ……」

奈緒「……言っとくけどこれ、加蓮の荷物だからな? 手伝ってるの、あたしだからな?」

加蓮「はいはい。ありがとありがと」

奈緒「感謝がおざなり!」



未央『2人とも、喋ってないでテキパキと運んでよー!』



奈緒「すぐやるよー。……じゃ、行くぞ加蓮」

加蓮「うん、りょーかい」



第2話 おわり

40 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:28:00.72 ID:gbQcrLF00
第3話 スタートライン


―――346プロ アイドル部門


P「奈緒、加蓮、今日は重大発表がある」

奈緒「どうしたんだ、改まって」

加蓮「重大発表って?」

P「実はな―――」



P「ついに、ソロデビューが決定したんだ!」



加蓮「ソロデビュー⁉」

奈緒「ま、マジで⁉」

P「マジだ! だから2人とも――」



P「卯月たちが事務所に戻ってきたら、お祝いしてやってくれ!」



奈緒「あたし達じゃないのかよ!」

加蓮「……ま、そりゃそうだよね。私、まだ事務所に入って1週間だし」

奈緒「プロデューサー! わざと期待させるように言ったな⁉ 一瞬期待しちゃっただろ! これが大人のやることか!」

P「ちょっとしたお茶目だ」

奈緒「……なあ、頼むから一発殴らせてくれ」

P「お、落ち着け奈緒。確かにまだ奈緒と加蓮のデビューは決まってないが、既に準備は進めてる。早いうちに伝えられるはずだ」

奈緒「ホントかよ……?」

P「俺のこの目を信じろ」

奈緒「あんたの目、なんか濁ってるんだよな……」

加蓮「うんうん」

P「……とにかく信じてくれ。さすがにこんな嘘つかないからさ」

奈緒「分かったよ。まああたしたち、まだデビューできるほどの実力がついたとは思えないしな」

加蓮「だね。気長に待つよ」

奈緒「でもさっきみたいのはもうやめろよな。次やったらマジで殴るぞ」

P「肝に銘じておきます」


41 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:28:26.76 ID:gbQcrLF00

加蓮「それよりさ、卯月たちのソロデビューはホントなんでしょ?」

P「ああ。今までは卯月、凛、未央の3人でnew generationsとしてユニット活動していたんだが、そろそろ新しい可能性を模索してもいい頃だと思ってな」

奈緒「それでソロデビューか。でもニュージェネはどうするんだ?」

P「もちろん、これからも今までと変わらず活動してくよ。ソロ活動も始めるだけで、ニュージェネをやめるわけじゃないからな」

奈緒「そっか。良かった」

P「というわけだから……3人が戻ってきたら、これ鳴らしてくれ」

加蓮「これ、クラッカー?」

奈緒「おい、誕生日じゃないんだぞ」

P「じゃ、よろしくな。俺はケーキの用意してくる」

奈緒「誕生日かっ!」

ちひろ「それだけ嬉しいんですよ。プロデューサーさん、担当するアイドルのこととなると、自分のことのように喜びますから」

加蓮「へぇ、プロデューサーにも可愛いとこあるんだね」

ちひろ「ふふっ、きっと奈緒ちゃんと加蓮ちゃんがデビューする時も、同じようなことをすると思いますよ」

奈緒「ま、マジですか……?」

加蓮「でもさ、祝ってもらって悪い気はしないよね」

奈緒「……ま、それもそうだな」

42 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:28:59.59 ID:gbQcrLF00


―――それからしばらくして


凛「ただいまー」


《パンパンッ!》


凛「⁉ な、なに⁉」

未央「まさか、事務所が襲撃を受けたの⁉」

卯月「うえぇ⁉」


P・奈緒・加蓮・ちひろ『ソロデビュー決定おめでとー!』


凛「あ……」

未央「……なるほどね。またプロデューサーのあれか」

卯月「びっくりしましたよぉ」

P「さあ3人とも、ケーキのろうそくの火を吹き消してくれ」

奈緒「だから誕生日かっ!」

加蓮「まあお祝い感はあるし、いいんじゃない?」

未央「じゃあ3人一緒に」

卯月「吹き消そう!」

凛「うん、そうだね」

卯月・凛・未央『ふぅ~』



《カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!》



卯月「ひゃぁ⁉」

凛「ちょっと、プロデューサー! なんで写真撮るの⁉」

P「いいだろ、記念だ」

未央「それにしても撮りすぎじゃない⁉」

43 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:29:25.46 ID:gbQcrLF00

P「じゃあちひろさん、ケーキ切るのお願いできます?」

ちひろ「はい、お任せください」

凛「まったくもう……」

加蓮「そういえばさ、ソロデビューの日っていつなの?」

凛「プロデューサーから聞いてないの?」

奈緒「今日のあいつは凛たちを祝うことしか頭に無かったからな。細かいことは聞いてないんだ」

凛「……まったく、プロデューサーは」

未央「来週の日曜にニュージェネのライブをするんだけど、その時に発表するんだー」

卯月「それで、そのまま一緒に曲も披露することになってるんだ」

奈緒「へぇ、サプライズってやつか」

未央「ふふーん、そういうこと!」

加蓮「頑張ってね、みんな。私たち、ライブ応援に行くからさ。ね、奈緒」

奈緒「ああ、行くっきゃないよな」

卯月「わぁ……! ありがとう、2人とも!」

凛「応援に来てもらえるのは嬉しいけど……でも、加蓮と奈緒はレッスンがあるんじゃない?」

奈緒「……あ」

加蓮「そういえば……」

奈緒「……プロデューサー!」

P「なんだ?」



奈緒「ライブ行きたいから、レッスン休みにしてくれ!」

P「いいぞ」



奈緒「いいんだ⁉ わりとヤケクソ気味だったんだけど!」

加蓮「随分あっさりだね」

P「ライブを観るのも、勉強になると思うからな。ルキちゃんには俺から言っとくよ」

奈緒「サンキュー、プロデューサー! あたし、初めてあんたを見直したよ!」

P「……なあ、俺のこと今までどう思ってたんだ?」

44 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:30:09.42 ID:gbQcrLF00


―――翌日、街中


加蓮「今日の夕飯の買い出しかぁ……カップラーメンじゃ駄目?」

奈緒「手抜きしようとすんな! そんなことしてたら、いつまでたっても料理上達しないだろ!」

加蓮「ちぇ~、なんで寮って当番制なの? 出来る人がやった方が良くない?」

奈緒「だったら加蓮は何するんだよ」

加蓮「私は……ネイルとか?」

奈緒「うん、とりあえずその係は今いらない。あたしも未央もネイルしてないだろ」

加蓮「これからすればいいじゃん。爪も伸ばしてさ」

奈緒「でも爪伸ばすとゲームやりづらいんだよなぁ」

加蓮「奈緒さぁ……もう少し女子力上げたら?」

奈緒「今のあたしは女子力低いと⁉」

加蓮「少なくとも、現役女子高生の平均よりは下かな」

奈緒「えぇ……? けっこうショックでかいぞ……ん? なんだ?」



『なあ、一緒にお茶ぐらいいいじゃんか』

『だから、そういうのお断りって言ってるでしょ! もうあっち行って!』

『そんな冷たいこと言わんでもよくね?』



加蓮「なんか……女子高生が絡まれてるっぽい?」

奈緒「加蓮、一応聞くけどあれ、スカウトしてるんじゃないよな?」

加蓮「いや、普通にナンパでしょ」

奈緒「やっぱそうだよなぁ……。じゃあ、ちょっとでしゃばるか」

加蓮「え、ちょっと奈緒?」

45 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:30:51.24 ID:gbQcrLF00


あたしはナンパしてる2人に近づいた。


奈緒「あんたたち、その辺にしとけって」

男A「なんだお前?」

男B「急に出てきやがって。邪魔だ、あっちいけ」

奈緒「いや、その子嫌がってるっぽいじゃんか。もうやめときなって」

JK「あなた……」

奈緒「いいか? あたしが、あんたたちにいいことを教えてやるよ」

男A「いいこと?」

男B「なんだってんだ?」

奈緒「それはな……」



奈緒「嫌がってる子と一緒にお茶しても、気まずいだけだぞ!」



JK「……え、そこ?」

男A「……たしかにそうだ!」

男B「なんで気が付かなかったんだ……」

JK「納得したの⁉」

奈緒「だからナンパするんなら気が合う奴を探した方がいいって。大丈夫、世の中は広いんだからさ。きっといい子が見つかるよ」

男A「お前……いいやつだな!」

男B「よーし、さっそく出会いを見つけに行こうぜ!」

男A「おう!」


男たちはまだ見ぬ出会いへと走り出していった。
46 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:31:42.43 ID:gbQcrLF00

奈緒「頑張れよー」

加蓮「何をするのかと思ったら……何してるの、奈緒?」

奈緒「あいつらのナンパがなってなかったから、ちょっと説教を」

加蓮「でしゃばり方おかしくない?」

JK「えぇっと……一応助けてくれたんだよね。ありがと」

奈緒「大したことしてないよ。……あれ? あんた、どっかで会ったことないか?」

JK「え?」

加蓮「ちょっと、なに奈緒までナンパみたいなこと言ってるの?」

奈緒「いやそうじゃなくてさ。確かどこかで―――」



その時、あたしの頭に先日のある一場面が浮かんだ。


P『へい彼女! 可愛いねー、一緒にお茶しない?』

ギャル『え、何? 悪いけどそういうのお断りだから』



奈緒「―――思い出した! 前にプロデューサーがスカウトしようとした子だ!」

加蓮「え、そうなの?」

JK「プロデューサー? スカウト?……なんの話?」

奈緒「覚えてないか? 1週間くらい前に、背広を着た怪しい奴にナンパされただろ?」

JK「……あー、そういえばそんなことあったかも」

奈緒「あいつ実はアイドル事務所のプロデューサーでさ。あの時は、あんたをスカウトしようとしてたんだよ」

JK「え、そうだったの? てっきりナンパだと思ったんだけど」

加蓮「プロデューサー、どんなスカウトしたの……?」

奈緒「それであたしたちは、一応あいつのプロデュースするアイドルなんだ。まあアイドルって言っても、まだ初めて1ヶ月も経ってない新人だけどな」

JK「へぇ、そうなんだ」

奈緒「あたしは神谷奈緒。で、こっちが」

加蓮「北条加蓮だよ。よろしくね」

美嘉「アタシは城ケ崎美嘉。2人とも、よろしく☆」

加蓮「……ん? 城ケ崎美嘉? あなた、どこかで見たことがあるような……」

奈緒「それはもうあたしがやったんだけど」

加蓮「そうじゃなくて。……あっ、モデルの城ケ崎美嘉! 雑誌で見たことある!」

奈緒「えっ、モデル⁉」

美嘉「あはは、うん。まあ一応モデルやらせてもらってるよ」

加蓮「一応なんてもんじゃないでしょ。カリスマJKって呼ばれるくらい人気なのに」

奈緒「そうなのか?」

加蓮「女子ならみんな知ってるって! 奈緒はもっと女子力磨きなよ!」

奈緒「美嘉のこと知らないくらいで、そこまで言わなくてもいいだろ⁉」

美嘉「ま、まあまあ落ち着いてよ」

加蓮「あ、ごめん」

奈緒「わ、悪い。でも美嘉はモデルなのか……じゃあアイドルとか元から無理だったな」

美嘉「無理? アタシ、アイドルやってみたいんだけどな」

奈緒「え?」

47 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:32:48.81 ID:gbQcrLF00


―――346プロ アイドル部門


奈緒「というわけで、美嘉連れてきたぞ」

美嘉「どーもー、城ケ崎美嘉でーす☆」

P「というわけって何⁉ なんかデジャヴなんだけど!」

奈緒「ほら、プロデューサー。この前あんたがスカウトしようとした子だよ」

P「え? あー、そういえばあの時の子だな」

美嘉「あ、この前のナンパの人だよね。ホントにプロデューサーだったんだ」

凛「ナンパ? プロデューサー、どういうこと……?」


ナンパという単語に、凛の目が妖しく光った。


P「……。……いや、それはなんのことだか分からんが。え、でもなんで? まさか加蓮に続いてまた――」 

卯月「奈緒ちゃんがこの子をスカウトしてきたってこと?」

奈緒「いや別にスカウトってわけじゃないけどさ。美嘉、アイドルやりたいらしいんだ」

凛「それスカウトだよね」

未央「すごいね、かみやん! プロデューサーはこの前かみやんをスカウトしたのが半年ぶりの成果だったのに、かみやんは2週間もかからずに2人スカウトしちゃったよ!」

P「うぐぅっ⁉」

凛「もうプロデューサーより、奈緒がスカウトを担当したほうがいいんじゃない?」

P「俺の仕事を奪うような提案するなよ!」

ちひろ「これは社長に報告案件ですね」

P「なんでいちいち報告しようとするんですか⁉ お願いですから勘弁してください!」


プロデューサーがちひろへ土下座をしていると、美嘉が卯月たちを見て声を上げた。


美嘉「あっ! ニュージェネの3人じゃん! えっ、ここってニュージェネの事務所だったんだ!」

奈緒「え? 美嘉、卯月たちのこと知ってるのか?」

美嘉「そりゃ知ってるよ。だってニュージェネって言ったら、この前のスターライトステージで新人ユニット賞獲った3人だよ?」

奈緒「……スターライト? なんだそれ?」

加蓮「スターライト……えっ⁉ そうだったの⁉」

美嘉「え、同じ事務所なのに知らなかったの?」

加蓮「私、最近はアイドル番組見てなかったから……そっか、そうだったんだ」

奈緒「え、何の話?」

P「奈緒はスターライトステージ知らないのか?」

奈緒「知らない。……スターライトブ○イカーと関係あったりする?」

P「欠片も関係ねぇよ!」

48 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:33:21.55 ID:gbQcrLF00

P「いいか? スターライトステージって言うのは、1年に一回だけ開かれるアイドルたちの祭典だ。その1年で目立つ活躍をしたアイドルたちがそれぞれライブを行って、その年のナンバーワンアイドルを決めるんだよ」

奈緒「へぇ……じゃあ、それで未央たちはナンバーワンになったのか?」

未央「……古傷を抉ってくるね、かみやん」

奈緒「え?」

卯月「あはは……そんなに前のことじゃないけどね」

凛「私たちの順位は5位。1位にはなれなかったんだ」

奈緒「そ、そうだったのか、悪い」

凛「別にもう終わったことだし、気にしてないよ。……来年は絶対に勝つから」

奈緒「滅茶苦茶気にしてる!」

加蓮「でも、5位でも十分凄いよ。私、全然知らなかったなぁ」

P「別に黙ってたわけじゃないんだけどな」

奈緒「……ん? じゃあ新人ユニット賞って言うのはなんなんだ?」

P「それは順位とは別で、1年間の活躍に与えられる賞なんだよ」

奈緒「そんなのもあるのか」

P「お前、何にも知らないのな……」

奈緒「うっさいな! しょうがないだろ! そ、それよりプロデューサー、美嘉をうちの事務所に入れてくれるのか?」

P「ん? まあ一度俺もスカウトしてるしな。こっちは大歓迎だ」

美嘉「じゃあみんな、これからよろしくね☆」

卯月「はい!……なんだか私、事務所がどんどん賑やかになってきて、嬉しいです!」

未央「だね、今月だけで3人だもん」

凛「私たち3人しかいない期間が長かっただけに、感慨深いよね」

加蓮「大丈夫、まだまだ増えてくよ。奈緒がどんどんスカウトするだろうからさ」

奈緒「いや、あたしにスカウトの権限ないから! それプロデューサーの役目だから!」

49 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:34:20.40 ID:gbQcrLF00


―――その日の夜 アイドル寮 奈緒の部屋


奈緒「……なあ、なんであたしの部屋に集まるんだ?」

加蓮「だって未央、奈緒、私の順に部屋が並んでるんだから、真ん中の奈緒の部屋に集まるのが一番いいでしょ?」

奈緒「どの部屋でも大して変わらないと思うけどなぁ」

未央「それにかみやんの部屋って、漫画とかいっぱいあって退屈しないもんね」

奈緒「あたしの部屋は漫画喫茶じゃないぞ!」

加蓮「奈緒―、紅茶ちょうだい」

奈緒「自分で淹れろよ!」

加蓮「えぇー……じゃあいいや」

奈緒「いいのかよ……。……それにしても、未央たちがスターライトステージなんてのに出てたなんてな」

未央「まあ、かみやんが事務所に入る前にも、色々頑張ってたわけですよ。……でも、もうその話はやめない? まだそんなに日が経ってないから、悔しさがけっこう残ってるんだ」

加蓮「未央もなんだ……」

未央「そしてしまむーもね」

奈緒「そっか、なんかごめんな」

未央「ううん、別にいいって」
50 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:34:49.87 ID:gbQcrLF00

奈緒「じゃあ話変えるけど……美嘉が事務所に入っても、寮は3人のままか」

加蓮「美嘉は東京に住んでるんだから、わざわざ寮に入ったりしないでしょ」

奈緒「それは加蓮もだろ」

加蓮「私はここの方が楽なんだもーん」

未央「そういえば美嘉ねーって、妹がいるらしいよ」

奈緒「妹? それって未央じゃなくて?」

未央「私はただニックネームで呼んでるだけだって。そうじゃなくて本物の妹。美嘉ねーとその子、すっごい仲良しみたいだから、寮に入ったりはしないんじゃないかな」

加蓮「妹かー。いいなー、私一人っ子なんだよね」

奈緒「あたしもだ」

未央「私は兄と弟がいるよー」

奈緒「え、マジで?」

加蓮「てっきり未央も一人っ子かと思ってたよ」

未央「なんか分からないけど、よく言われるなーそれ」

奈緒「じゃあ未央は妹であり姉でもあるのか……一粒で二度美味しいな」

未央「私はグ○コじゃないよ⁉」

加蓮「ほら未央、加蓮お姉ちゃんが飴あげるよー」

未央「わーい!―――って喜ばないから! なにいきなりお姉ちゃんぶってるのさ!」

加蓮「せっかくだから、姉の気分を味わってみたくて。ちょっと付き合ってよ」

未央「えぇ……結構恥ずいよ、それ」

加蓮「それ未央、飴ちゃんとっておいでー! ぽいっ!」

未央「わーい!」

奈緒(なんだかんだ言っても、ちゃんと付き合ってやる辺り、さすがだよな……)

未央「―――ってこれ妹っていうより犬じゃん!」

加蓮「あはは、ごめんごめん。そういえばさ、私犬も飼いたいんだよね」

奈緒「残念ながら、この寮はペット禁止だぞ」

加蓮「じゃあ未央、次は犬を――」

未央「もうやらないよ!」

加蓮「ちぇ~」

未央「まったくもー……あ、でもそういえばしぶりんが犬飼ってるよ」

奈緒「凛が?」

未央「ハナコって言うんだ。もうしぶりん溺愛してるの」

奈緒「溺愛って……なんか想像つかないな」

加蓮「凛って、ペットの前だと性格変わるタイプなのかな」

未央「しぶりんとハナコの写真あるよ。えーと……これこれ」

奈緒「凛、めっちゃ笑顔だ!」

加蓮「へー、いつもクールなのに、ペットの前だとこんな感じなんだ」

未央「意外でしょ?」

51 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:35:28.32 ID:gbQcrLF00


―――渋谷家


凛「くしゅん!……風邪かな?」

ハナコ「キャンキャン!」

凛「ハナコ、心配してくれてるの?」

ハナコ「キャン!」

凛「ふふっ。ありがとね、ハナコ」

52 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:36:09.67 ID:gbQcrLF00


―――翌日、346プロ レッスン室


奈緒「今日からは美嘉も一緒にレッスンか」

美嘉「2人とも、よろしくね☆ それでさ、レッスンって何するの? やっぱりダンスしたり、歌ったり?」

加蓮「うん、大体そんな感じかな。あとは基礎体力をつけるトレーニングとか」

美嘉「へぇ、そんなのもやるんだ」

ルキトレ「やるんですよー」

美嘉「わっ⁉ び、びっくりしたー……」

加蓮「やっほー、ルキちゃん」

美嘉「ルキちゃん?」

加蓮「ルーキーのトレーナーだから、ルキちゃん。私たちと同じで新人なんだよ」

美嘉「あ、そうなんだ。……え、本名は?」

奈緒「そういえば聞いてないな……」

ルキトレ「別にルキちゃんでいいですよ。プロデューサーさんすら、そう呼んでますし」

美嘉「じゃあ、ルキちゃん☆」

ルキトレ「はい。あなたが城ケ崎美嘉ちゃんですよね? ふっふっふ、今日からバシビシいきますから、覚悟してくださいよ……!」

美嘉「は、はい……ん? バシビシ?」

加蓮「ルキちゃん、ビシバシじゃない?」

ルキトレ「あぅっ⁉……間違えたぁ」

奈緒「威厳が無いのに威厳を出そうとしても、無理な話だぞ。0.1秒でボロが出てるし」

ルキトレ「うぅ……やっぱりまだ私はお姉ちゃんみたいには無理だなぁ」

美嘉「お姉ちゃん?」

加蓮「ルキちゃんのお姉さんって3人いるんだけど、みんなトレーナーなんだよ。その中でも一番上のお姉さんは、ルキちゃんとは違って威厳ありありらしいよ」

ルキトレ「いつか、お姉ちゃんのようになるのが私の目標なんです……!」

美嘉「そっか……頑張ってね、ルキちゃん☆」

ルキトレ「はい!……あっ⁉ 今日のレッスン内容書いた紙、更衣室に忘れちゃった⁉ ご、ごめんなさい、ちょっと取ってきます!」

奈緒「……目標に届くのは、当分先になりそうだな」

53 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:37:15.96 ID:gbQcrLF00


―――レッスン休憩 346プロ 廊下


あたしは1人、自販機の前に立っていた。


奈緒(くっそー、『ジャンケンで負けた奴が飲み物買ってくることにしよう』とか言わなき
ゃ良かったなぁ。まさかあたしが負けることになるなんて……言い出しっぺは損だな)

奈緒「……あれ? そういえば買ってくる飲み物決めてなくないか?……あたしたち、バカなのか? どうしよっかな、色々あるけど……うーん……」



???「すみません。悩んでいるのでしたら、先に買わせてもらってもよろしいですか?」



奈緒「え? あ、すみません、どうぞどうぞ」

???「ありがとうございます」

奈緒(……え、この人抹茶買ったよ)

???「実はさっきからのどが渇いていて、ずっと飲み物が欲しかったんです」

奈緒「そうでしたか。でも抹茶とは渋いですね」

???「ふふ、少し苦いですけど、慣れれば美味しいですよ。だから私、最近抹茶にはまっちゃってるんです」

奈緒「へぇ、抹茶にはまっちゃ―――」

奈緒(え、まさか今のダジャレ?……いや、そんなこと言うような人には見えないし、偶然か)

???「あなたは……どこかの新人さんですか?」

奈緒「あ、はい。この前アイドル部門に入った、神谷奈緒って言います」

???「アイドル部門……そんな部門あったかしら?」

奈緒「なんか、半年前くらいに出来たばっかりみたいですね」

???「ああ、そうだったの。アイドル部門……アイドル……」

奈緒「あの、どうかしましたか?」

???「あ、いえ、なんでもありません。では」

奈緒「あ、はい。……なんか不思議な人だったな。凄い美人さんだったけど。さて、飲み物どうしようかな………………抹茶でいいか」

54 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:37:51.82 ID:gbQcrLF00


―――レッスン室


美嘉「ちょっと奈緒! なんで抹茶なんて買ってきてるの⁉」

加蓮「ジャンケン負けたからって、これは酷くない? 罰ゲームじゃないんだからさ……」

奈緒「いや、自販機の所で会った人が美味いって言っててさ。2人とも、抹茶飲んだことあるのか?」

加蓮「無いけど……」

美嘉「そういえば、アタシも無いなぁ」

奈緒「だったら飲んでみなくちゃ苦いかなんて分かんないだろ? 意外と美味いかもだぞ?」

加蓮「えぇー……ホントかなぁ?」

美嘉「じゃあ、試しに飲んでみる?」

奈緒「飲め飲め。文句は飲んでから言えって」

加蓮「しょうがないなぁ」





奈緒・加蓮・美嘉『…………苦っ⁉』

55 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:38:33.40 ID:gbQcrLF00


―――レッスン後 346プロ廊下


加蓮「ほら奈緒。きびきび歩く」

美嘉「早くしないと置いてくよー」

奈緒「くぅう……なんであたしが2人の分の荷物まで持たなきゃならないんだ……」

加蓮「あんなもの私たちに飲ませてくれたんだから、当然の罰でしょ?」

美嘉「うんうん。まだ口の中に苦みが残ってるんだからね」

奈緒「だから悪かったって何度も謝ったじゃんかー」

加蓮「事務所までなんだから、そんなかからないでしょ。さ、行くよ」

奈緒「うぅ……いつもより廊下が長く感じるなぁ……」

56 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:39:12.35 ID:gbQcrLF00


―――346プロ アイドル部門事務所


奈緒「やっと着いたー!」

加蓮「お疲れ、奈緒」

美嘉「運んでくれてありがとね☆」

奈緒「持たせといてよく言うよ……」

???「おかえりなさい、奈緒さん」

奈緒「あ、ただいま―――ってさっき自販機のとこで会った人じゃん⁉ なんでいるの⁉」

加蓮「自販機……?」

美嘉「っていうことは、この人が抹茶の人?」

???「抹茶の人……? いえ、私は高垣楓と申します」

美嘉「あ、これはどうもご丁寧に。アタシは城ケ崎美嘉って言います」

奈緒「ちひろさん、どういうことなんだ?」

ちひろ「いえ、それがですね―――」


《ガチャ》


P「戻りましたー」

楓「おかえりなさい」

P「あ、ただいま―――ってどちら様ですか⁉」

未央「なになに? どうしたのプロデューサー?」

卯月「あ、なんだか凄く綺麗な人がいます!」

凛「本当だね……誰だろう?」

57 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:39:42.18 ID:gbQcrLF00

P「え、えーっと……はじめまして、私はこの事務所のプロデューサーをしている者です」

楓「あ、そうでしたか。私は高垣楓と申します」

P「高垣さんはうちの事務所に何かご用が?」

楓「実は私、346プロのモデル部門に所属しているのですが……」

P「ああ、高垣さんはモデル部門の方でしたか」

楓「はい。ですがこの度、アイドル部門に異動したいと考えていて……」



P「これから一緒に頑張りましょう、楓さん!」



奈緒「即決かよ!」

楓「では、異動しても大丈夫なのでしょうか? まだモデル部門の上の方には伝えていないのですが……」

P「大丈夫です。そんなもんどうとでもなります」

奈緒「おいプロデューサー、ホントに勝手に決めちゃっていいのか?」

P「いいんだよ。楓さんが来たいって言ってくれてるんだから」

奈緒「いや、でもモデル部門の上の人の許可とかいるだろ」

P「まあいるだろうけど……あ、そうだ。モデル部門と言わず、社長の許可取ってくりゃいいんだ。俺、ちょっと行ってくるな」

奈緒「いや、やめとけよ! 社長に直訴とか下手すりゃクビだぞ!」

加蓮「……もう行っちゃったよ」

奈緒「……あいつとも今日でお別れか」

58 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:40:26.53 ID:gbQcrLF00


―――30分後


P「楓さんの異動、OKだってさ」

奈緒「許可取れたの⁉ あんた、意外にデキるやつなのか⁉」

P「うちの社長は話が分かる人だからな。楓さんの意思を尊重してくれたんだ。アポなしで突然会いに行ったからぶん殴られたけど」

奈緒「うちの社長バイオレンスだな!」

P「楓さん、そういうわけなので、これからはアイドル部門所属になります」

楓「ありがとうございます、プロデューサーさん。私のためにわざわざ……」

P「いえいえ。アイドルのために尽力する、それが私の仕事ですから」

楓「まあ……さすがはプロデューサーさんですね」

P「いやぁ、それほどでもないですよ。あっはっはっは」





凛「……プロデューサー、年上が好きなの?」





P「どうした急に⁉」

凛「随分嬉しそうだったから」

P「そりゃ所属アイドルが増えたら嬉しいだろ」

凛「ふーん……」


凛が少し不機嫌になっている。

59 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:41:28.05 ID:gbQcrLF00


――少し離れた位置で


加蓮(……あれ? 凛ってもしかして……)

未央(あ、気付いた?)

美嘉(え、そうなの⁉ 意外……)

奈緒(え、何の話?)

卯月(凛ちゃんがプロデューサーさんのことを好きだって話だよ)

奈緒(へー、そうなのか……)



奈緒「えぇぇぇぇぇええええええええええええええええ⁉」



P「奈緒⁉ どうした⁉」

奈緒「おま、お前、凛……えぇ⁉」

加蓮「あまりの驚きに錯乱してる……」

凛「奈緒、一体どうしたの?」

卯月「あのね―――」

凛「うん。―――なに余計なこと教えてるの⁉」

卯月「だ、駄目だった?」

凛「駄目だよ!」

未央「どうせすぐバレるんだから、いいじゃん」

凛「良くないよ! せ、せめて加蓮と美嘉には……」

加蓮「いや、もう知ってるけど」

美嘉「うん」

凛「なっ⁉……。……2人とも、今知ったことは他言無用のトップシークレットだから。誰かに話したりしたら、絶対に許さないよ……?」

加蓮「怖い怖い怖い! 目が怖いって!」

美嘉「わ、分かった、誰にも言わないから!」

凛「ならいいよ。……奈緒も――」



奈緒『なおはプロデューサーにこうげきした』

P『ちょぉいっ⁉ 何こんらん状態になってんだ⁉』



凛「……奈緒には後で釘を刺そう」

60 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:41:55.89 ID:gbQcrLF00


―――???


???「ふむ……この短期間に神谷奈緒、北条加蓮、城ケ崎美嘉、高垣楓の4人がアイドル部門に新たに所属、か……。あいつだけの力とは考えにくいな……。ならやはり……偶然かもしれんが、試してみる価値はあるか……」

61 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:42:39.99 ID:gbQcrLF00


―――ニュージェネライブ当日 楽屋


奈緒「よ、3人とも」

加蓮「約束通り、応援に来たよー」

美嘉「やっほー☆」

楓「お邪魔しますね」

卯月「あ、みなさん!」

未央「おっ、来たねー」

凛「みんな、わざわざありがとう」

加蓮「いいって、レッスンサボれるし」

奈緒「おい」

加蓮「ジョーダンだって」

奈緒「ホントかよ……」

美嘉「ライブ、けっこう大きなとこでやるんだね」

卯月「うん。今までで一番大きな会場なんだ。だから緊張が……」

凛「こればっかりは、何度ライブしてもね」

未央「じゃあ私たちの緊張をほぐすために、かみやんの一発ギャグをどうぞ!」

奈緒「やらねーし! 持ちネタとか無いから!」

加蓮「奈緒、未央たちのために一発ギャグくらいやってあげなよ」

奈緒「他人ごとだと思って何言い出すんだ、加蓮!」

美嘉「大爆笑のやつでお願いね☆」

奈緒「そしてハードル上げるの⁉ ますますやだよ!」

楓「みんなの緊張を、奈緒ちゃんが治してあげて。……ふふっ」

奈緒「楓さんそれ言いたいだけですよね⁉」

凛「奈緒。……頑張れ」

奈緒「止めてくれないのか、凛!」

卯月「大爆笑の一発ギャグ……いったいどんなギャグなのかな……私、楽しみです!」

奈緒「純粋な視線が眩しい!」

62 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:43:52.87 ID:gbQcrLF00

加蓮「さあ奈緒、準備はいい?」

奈緒「……うぅ、なんでこんな……ぎゃ、ギャグとか……何を……」

未央「じゃあ、張り切ってどうぞ!」

奈緒(くっ、こうなりゃヤケだ!)






奈緒「ライブ前は緊張でつらいぶ。な、なーんちゃって……」






『……………………』


一同の間に静寂の時間が流れる。
それはほんの数秒のことだったが……あたしには永遠に感じられた。


楓「……くすっ」


1人笑う楓さん。トドメだった。


加蓮「奈緒……今のは……」

未央「一発ギャグというか……ダジャレ……しかも若干無理が……」

奈緒「あ、あぅ……うぁぁ……うきゃぁ―――――――っ!」


《ガチャッ!》


美嘉「あ、ちょっと奈緒⁉」

卯月「奈緒ちゃん、凄い速さで出ていっちゃいましたよ⁉」

凛「恥ずかしさに耐え切れなかったみたいだね」

加蓮「しょうがないなぁ……追いかけてくるね」

未央「あー、お願いかれん。かみやんに無茶振りしてごめんって伝えといて」

加蓮「うん、りょーかい」

美嘉「じゃ、アタシたちも」

楓「そうね。みんな、ライブ頑張ってね」

卯月「はい!」

凛「絶対、良いライブにします」


《ガチャ》


凛「……2人とも、奈緒のアレで本当に緊張がほぐれたんじゃない?」

未央「あ、そういえばそうかも」

卯月「いつの間にか緊張が解けてるみたい」

凛「私もなんだ。ギャグとしてはアレだったけど、奈緒には感謝しないとだね」

63 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:45:08.21 ID:gbQcrLF00


―――観客席


奈緒「うぅ……もう寮に戻ってアニメ見たい……」

加蓮「なに言ってるんだか……。奈緒、もうすぐライブ始まるんだから、そろそろしゃっきりしなよ」

奈緒「そんなすぐ切り替えられないよぉ……」

美嘉「思ったよりダメージでかいね」

楓「奈緒ちゃん。私はあれ、いいと思ったわよ」

奈緒「うぎゃあぁ―――――っ!」

美嘉「楓さん、それはフォローじゃなくて追い打ち」

楓「あら……?」


『お待たせいたしました。これよりニュージェネレーションズ新春ライブを開始いたします』


加蓮「もう、奈緒! ホントに始まるよ!」

奈緒「うぅ、分かったよぉ……あっ! 未央たち出てきた」


ステージに卯月、凛、未央が現れ、最初の曲を歌い始めた。


『小さく前ならえ! 詰め込んだ気持ちが―――』

64 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:45:57.01 ID:gbQcrLF00


『―――未来デビューだよ、よろしくっ!』


new generationsの曲、『できたてEvo! Revo! Generation!』が終了する。


奈緒「凛たちのライブ、初めて見たけどすごいのな! な、加蓮!」

加蓮「……もうすっかり立ち直ってるし」

奈緒「ん? なんか言った?」

加蓮「なんでもないよー」


そんなやりとりをしていると、ステージで卯月が喋り始める。


卯月『ここで私たちからみなさんに、大事なお知らせがあります!』

凛『この度、私たち3人は……』

未央『なんと、ソロデビューすることになりましたー!』


その発表に、会場が沸き上がった。


卯月『ソロデビューと言っても、ニュージェネの活動はこれからも続けていきます!』

未央『だからみんな、安心してねー!』

凛『そしてもう一つサプライズ。そのソロデビュー曲を、今からここで初披露するよ。それじゃ、まずは未央から』

卯月『私たちは一旦、ステージから離れますね』

未央『―――それじゃ、聞いてね! 私のソロ曲『ミツボシ☆☆★』、本邦初公開だよ!』



『燃―やせっ! 友情パッションはミツボシ!』


65 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:46:48.82 ID:gbQcrLF00


『愛をこめてずっと、歌うよ―――――――――っ!』


卯月『ありがとうございました!』


未央の歌に続き、卯月が自分のソロ曲、『S(mile)ING!』を歌い終わる。


そのライブを、あたしは無言で食い入るように観ていた。

奈緒「……」

加蓮「奈緒? どうかしたの?」

奈緒「……ん? いや、なんでもない」

美嘉「最後は凛だね」

楓「どんな曲か、楽しみね」


未央『それじゃあ、いよいよ次で最後だね! みんな分かってるだろうけど……』

卯月『最後に歌うのは、凛ちゃんです!』 

未央・卯月『曲は―――Never say never!』


卯月と未央がそう告げると同時に、ステージの中央に凛が現れる。



『―――ずっと強く……そう強く……あの場所へ、走り出そう!』


66 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:47:46.35 ID:gbQcrLF00


―――ライブ後、楽屋


美嘉「3人とも、最高のライブだったよー!」

楓「本当に、いいライブだったわ」

卯月「ありがとうございます!」

未央「いやぁ、私たちにかかればこんなもんだよ」

凛「調子に乗らない」

未央「てへへ」

加蓮「でもホント、良かったよ。ね、奈緒?」

奈緒「……え? あ、ああそうだな。みんな凄い盛り上がってたし」

加蓮「……さっきからどうかしたの?」

奈緒「ちょっとな……」


《ガチャッ》


P「卯月、凛、未央、3人ともお疲れさん! ライブ大成功だったな!」

奈緒「いたのかプロデューサー」

P「いたよ⁉ ずっと裏で仕事してたんだよ!」

卯月「プロデューサーさんもお疲れさまです!」

凛「お疲れ、プロデューサー」

未央「お疲れさま!」

P「ああ、ありがとな」

奈緒「……」

加蓮「奈緒……?」

67 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:49:29.75 ID:gbQcrLF00


―――その日の深夜 寮の屋上


加蓮「何してるの奈緒、こんな夜中に」

奈緒「加蓮……? どうしたんだ?」

加蓮「どうしたもこうしたも、奈緒の部屋の扉が開いた音がしたから、気になって来たんだけど」

奈緒「そっか。起こしてごめん」

加蓮「別にいいけど……奈緒、ライブ終わってから変じゃない? どうしたの?」

奈緒「……あのさ、今日のライブ見て、加蓮どう思った?」

加蓮「どうって……すごかったよね、3人とも。私、ライブとか初めてだったから、すごい盛り上がっちゃったよ」

奈緒「そうなんだよなぁー……すごいんだよなぁー」

加蓮「……なんなの?」

奈緒「いやさ、あたしたちも一応アイドルなわけじゃんか。あたし、最初は普通にライブを楽しんでたんだけど、途中から色々と考えちゃってさ」

加蓮「色々って……どんな?」

奈緒「いつかデビューした時、あたしに凛たちみたいなライブが出来るのかなぁ……とか、そもそもホントにあたしがアイドルとか出来るのかなーとか……そんな感じ」

加蓮「つまり……未央たちのライブ見て、ショック受けちゃった?」

奈緒「ショック……。そっか、あたしショック受けてたのか。卯月たちがあんまりすごかったもんだから……」

加蓮「奈緒……」



加蓮「……てりゃっ!」



奈緒「うぇっ⁉ にゃ、にゃにすんだ! ほっへあひっはんにゃ!(な、何すんだ! ほっぺた引っ張んな!)」

加蓮「あははっ、面白い顔―!」

奈緒「ひゃらうにゃー! (笑うなー!)」

加蓮「奈緒さー、そんなこと考えてても仕方ないって。私たちはついこの間アイドルやろうって決めたばっかりの、アイドル新入生なんだから。もう何度もライブやって経験積んでる未央たちとじゃ、レベル違うの当然でしょ?」

奈緒「いにゃ、しょりゃしょうやけろさ……(いや、そりゃそうだけどさ……)」

加蓮「これから経験積んでいけば、きっと私たちもあんなライブが出来るようになるよ。だから、暗い顔してないで笑顔笑顔♪ ほら、むに~っ!」

奈緒「む、むりにゃりえきゃおにしゃしぇるにゃ! ひいきゃけんひゃ~にゃ~しぇ~っ!(む、無理矢理笑顔にさせるな! いい加減は~な~せ~っ!)」

加蓮「ふふっ、はいはい」

奈緒「ったく、やっと解放されたよ……」

加蓮「それでどう? ショックはまだ残ってる?」

奈緒「おかげさまで、どっかに行っちゃったよ。……そうだよな、まだあたしは何にもやってないんだ。今までは準備運動みたいなもん……気合を入れ直したここからが、あたしのアイドル活動の本当のスタートだ! よーし、やるぞー!」

加蓮「じゃあ私も、奈緒と一緒にスタートすることにするよ。目標も出来たもんね?」

奈緒「目標?……そうだな。本人たちには恥ずかしいから絶対言わないけど……あたしたちの目標は、ニュージェネだ! いつかは凛や卯月、未央に追いついて、そして追い越す! 加蓮、一緒に頑張ろうな!」

加蓮「ふふっ、りょーかい♪」

68 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:51:14.03 ID:gbQcrLF00



―――屋上から降りる階段にて


加蓮「……あ、そうだ。さっきの奈緒のほっぺ、ぷにぷにしてて気持ちよかったよ」

奈緒「なっ⁉ ぷ、ぷにぷにって……そ、そんな感想とか言わなくていいんだよぉーっ!」



第3話 おわり




69 : ◆mqlRkew9nI/5 [saga]:2017/04/14(金) 22:54:15.74 ID:gbQcrLF00
キリのいいとこまで上げたくて一気に3話まで上げました。
次に上げる時は0話を上げようと思います。

奈緒がまだ事務所にいない頃の話なので、Pの一人称になり、文体も少し変わります。
ご了承ください。

70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/14(金) 23:30:30.79 ID:M8yt9Hj9o
奈緒がPよりPして笑う…やはりCu系アイドル
STORYコミュでまた歌って欲しいな、ユニット名も不明だし
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/15(土) 02:58:16.79 ID:erNuWVpgO

このPよくニュージェネスカウト出来たな