沙綾「好きです////」有咲「へっ!?//////」

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1 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:27:37.62 ID:IlFFOpT9O


昨日の蔵での練習は、いつもより大分長くなって、帰りが遅かった。

何度も何度も同じ曲を練習して、疲れなかったわけじゃないんだけど。

それでもなんか、楽しかった。


ふと気がついたら、夜の9時を回ってて。みんな、慌てて帰った。


有咲は大丈夫って言ってくれたけど、やっぱり悪かったな。

後でちゃんと謝ろう。

誰か、お母さんとかに怒られたりしていなければいいんだけど……。


その練習終わりの、今朝。やっぱりまだ、大分眠い。

こうして学校までの道のりを歩くだけでも、既に2回はあくびをしている。


みんなで練習していると、時間が過ぎるのを忘れてしまうから、

昨日の事も仕方ないと言えば仕方ないんだけど。


それで次の日の練習に支障が出たら、本末転倒だし……。

これからは、時間もある程度は気にしようかな。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1494088057
2 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:29:23.58 ID:IlFFOpT9O


「おっはよー沙綾!」


「わっ! ……びっくりした、香澄かー」


突然声をかけてきたのは、ボーカル兼ギター担当の戸山香澄。

いつか、私をバンドに誘ってくれたのも彼女だった。


「ったく、沙綾を見た途端いきなり走っていきやがって……」


後ろからトテトテと追いついてきて、今もなおハアハアと肩を上下させている、

明るい色のツインテールの女の子。

彼女は、キーボード担当の市ヶ谷有咲。

見た目は清楚なお嬢様なのに、素直ではない所が玉に傷だ。


「おはよう、香澄、有咲。朝から二人とも元気だねー」


「私は全然元気じゃねえ」


 有咲が不満を口にしているが、香澄はそんなことお構いなしだ。


「んー! 今日も沙綾、いい匂い!」


「え? ――ちょ、香澄っ!?」


香澄が突然、私の腕に抱き着いてきた。


「……お前なあ、誰彼構わず抱き着くなっつーの」


有咲は呆れ気味にため息をつく。


「えっへへー、パンの匂いがするー」


ニコニコと小動物のように笑う香澄を見ていると、私は何も言えなくなってしまう。

3 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:33:04.20 ID:IlFFOpT9O


「私ねー、沙綾が傍にいると、見えなくてもすぐわかっちゃうんだあ、すごいでしょー」


私の腰の辺りに手を回しながら、子犬のように鼻をクンクンとさせる香澄。


――それって……見えなくても分かってしまうくらい、私の匂いは特徴的ってこと?


「そ……そんなに匂いする……かな?」


聞くと、香澄は既に明るい表情を、更にパアッとキラキラさせて。


「するよー? 沙綾が通ったって、私すぐにわかるもんっ!」


「……そっか、そんなに……匂いするんだ」

4 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:35:52.58 ID:IlFFOpT9O


「……パンの匂い……か」


教室に到着して、みんなとの会話を終えて席に着いた私は、それとなく自分の二の腕に鼻を近づけた。


正直、自分からどんな匂いがするかなんて、自分では全然分からない。


私の家は『山吹ベーカリー』という店名でパン屋を営んでいる。

私は、いつもお父さんの仕事を手伝っているから、パン屋の匂いが身体に染み込んでいても不思議ではない。

それにパンは大好きだし、身体から仕事場の匂いがすると言われれば、悪い気はしない。


……でも、私だって年頃の高校生だ。


身体から食べ物の匂いがするなんて……傍から見たら、どう映るんだろう。


言いようのない不安感が、胸の奥底にドッと溢れてくる。
5 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:40:47.95 ID:IlFFOpT9O


2つの見慣れた影が、いつの間にか私の座る席の目の前まで近づいていたことに、

ボーっと考え事をしていた私は全く気が付かなかった。


「沙綾? どうしたの、元気ないね」


「沙綾ちゃん、何かあった?」


おたえとりみりんが、私の顔を覗き込んできた。

机に座って木面をじっと見つめていただけなのに、私は二人を心配させてしまったらしい。



「う……ううん、何でもないよ。

 そ、それよりも……今日の放課後も、蔵で練習するんだよね! また、みんなで頑張ろ!」


適当に言葉を取り繕い、いつもの私を演じることで、どうにか2人には隠すことができたけど。

胸に居座る黒い何かは、違和感として1日中残り続けた。

6 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:45:24.05 ID:IlFFOpT9O


放課後、私はまっすぐ有咲の家の蔵に向かった。

最近はお母さんも、お父さんがいるから心配いらないと言ってくれていて。

それでも、ホントは心配で。普段は、家に寄ってから向かうんだけど。


――今日は、もう一つの理由があった。


もやもやしている今の気分を、ドラムを叩くことで忘れたかったんだ。


「おっ、早いじゃん」


階段を下りた先には、一足先にキーボードの練習をしていたらしい、ツインテールの女の子。


「有咲……他のみんなは?」


「さあ? まだ来てないんじゃねーの」


「そっか……」


荷物を置いて、ドラムの椅子に腰かける。


「随分と白けた顔してんなー。……朝の事、気にしてんのか?」


スティックを鞄から取り出すと、何だか優しい声が、私の耳に届いた。


「え……何だ、気づかれてたんだ」

7 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:48:05.79 ID:IlFFOpT9O


顔を上げると、有咲はキーボードに目を向けたまま。


「……そりゃあ気づくって。別に気にすることじゃねえ。

 あいつ、絶対そんなに深く考えて発言してねーよ。

 考えたことをそのまま言ってるだけだから、こっちが考えるだけムダ」


「あー……まあ、それは分かってるんだけどね。

 ただ、そんなに私、匂いしてるのかな……って思っちゃって」


「私は全然わかんねー。香澄の嗅覚は犬並みだからな。

 初めて会った時、沙綾の家がパン屋だって気が付いたのは、香澄だけだったじゃん?」


言葉も、言い方も。全部が全部、私に気を遣ってくれている。

――本当に、優しいんだから。


「……フフッ。ありがとね、有咲」


「っ!! 別に、そんなんじゃねえっつーの! ったく沙綾はホント……ああもう暑い!

 ちょっと飲み物取ってくる!」


そう言うと、有咲は蔵を出て行ってしまった。

……可愛いな、有咲は。彼女と話していると、どういうわけか元気が湧いてくる。


彼女の言う通り、余り考え込んでも仕方がない。ドラムを叩いて、全部忘れよう。
8 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:52:02.24 ID:IlFFOpT9O


――ふと足音が聞こえたような気がして。

顔を上げると、階段状に積み重なった棚の上に、香澄が立っていた。


「……聞いてたの?」


「……うん、何か、聞こえちゃった」


先程の会話を、全て香澄に聞かれてしまったのだろうか。

もしもそのせいで、香澄が今、少しでも負い目を感じているとしたら……。


「ごめんね香澄、全然そんなんじゃないから。私の思い違い。ドラム叩けばすぐに――」


次の瞬間、香澄の身体が私に密着した。

階段から下りてきた彼女が、突然私に抱き着いたのだ。


「かっ、香澄!?」


いきなりの出来事に、心臓の鼓動が高鳴っていく。

蔵の密室に2人きりで抱き合っているという状況を意識してしまったせいか、顔が熱くなってくる。


「えへへ……いい匂い」


耳元で囁かれ、彼女の甘ったるい声が私の脳を蕩けさせる。

今の私は、耳まで真っ赤になってしまっているに違いない。

9 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:53:59.18 ID:IlFFOpT9O


背中に回された両手が解かれ、香澄の顔が鼻先まで近づく。


「……私ね、沙綾の匂いが好きなんだ。

パンの匂いに交じって、パンとは違う、沙綾の甘い匂いがするの。だから、近くにいるとすぐに分かっちゃう」


「へ……へえ、そう……なんだ」


どう返せばいいのか……分からない。


香澄は、私の事を変だと思っていないだろうか。

抱き着かれて顔が真っ赤になってしまった私を見て、引いていないだろうか。


香澄の顔が見れない。無意識に両手で顔を隠してしまう。


「その……香澄? 別にね、何でもないから、これ。放っておけばすぐ直るから」


不意に、両手に温かい感触を感じ……優しい手つきで、隠していた顔から離される。


目の前で、香澄が私の顔を凝視していた。

10 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:56:06.35 ID:IlFFOpT9O


お願い……そんなに見ないで。

こんなに真っ赤になった顔、見られたくない……。


「……かす……み……?」


「私、さーやのこと大好き!!」


……え?

だい……すき?


「~~~~~~~~~~~!!」


顔から火が出るのではないかと思うほど、全身の温度が上昇していく。

ヤバい。胸のドキドキが止まらないっ……!!


分かってるんだ……香澄が、深く考えていないことくらい。

私だって、香澄をどう思っているのかと言われたら、友達で、同じバンドを組む仲間だと答えるしかない。


――でも、今この瞬間だけは……違った。

11 : ◆PChhdNeYjM [saga]:2017/05/07(日) 01:57:31.92 ID:IlFFOpT9O


「……あんたら、何してんの?」


ふと見上げると、みんなの飲み物を御盆に載せて持ってきてくれたらしい有咲が、

階段から私達二人を見下ろしていた。


「あ……有咲、戻ったんだ」


その後ろから、りみりんとおたえが顔を見せる。


「ごめん、遅くなっちゃって~」


「オッチャンに夢中になってたら、こんな時間になった」


有咲の後ろに続く形で降りてきたりみりんは、何やら不思議そうな表情で、私の顔を凝視する。


「……なんか沙綾ちゃん、顔が赤いような……熱?」


「……? 風邪でも引いた?」


そんなりみりんを見て、おたえまでもが私を心配し始める。


「さ、さーて、練習始めるぞ」


話の流れを切ろうとしてくれたらしい有咲は、何だか頼もしく見えて。

……私は。


「……練習しようだなんて、珍しいね、有咲」


「なっ……いいんだよ! ……ほら、さっさと練習!」


私の言葉に怒ったのか、赤面する有咲。


結局、その日の私は動揺してて、上手く演奏できなくて。

あんまり、練習にならなかった。

12 : ◆PChhdNeYjM [sage saga]:2017/05/07(日) 02:00:46.39 ID:IlFFOpT9O
沙綾視点はここまで。ありさあやを期待して来られた方、何だか申し訳ありません。
明日、有咲視点で書くつもりです。見かけ次第、覗いてくださると幸いです。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/07(日) 02:04:45.47 ID:RxC8nuBIo
期待
だけどどこかで読んだかな?
14 : ◆PChhdNeYjM [sage saga]:2017/05/07(日) 02:08:00.85 ID:IlFFOpT9O
>>13
その通りです、以前pixivで投稿したことがあります。同じ作者ですので安心なさってください。
現在そのアカウントは削除しており、その続編を書いていこうと考えております。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/07(日) 02:24:59.59 ID:jOCt7b5Yo
俺も見たことあると思ったらそういうことか
期待

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